- 著者
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宮沢 孝幸
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 挑戦的萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2010
レトロウイルスはゲノムに組み込まれるという性質をもっており、ほ乳類のゲノムには意味のある遺伝子の何倍もの分量の「レトロウイルス」が生まれながらにして組み込まれている。この宿主のゲノムに入り込み宿主と同化したウイルスのことを内在性レトロウイルスと呼ぶ。ほ乳類のゲノムでは、遺伝子の占める割合がわずか2%程度である一方で、内在性レトロウイルスの配列が占める割合は約10%と非常に高い。最近の研究により、内在性レトロウイルスが、胎盤の形成や病原性ウイルスの防御に関わっていることが明らかになってきた。このことは、ほ乳類は生理学的機能の進化のためにレトロウイルスを積極的に取り込み(内在化)、利用してきたことを意味する。ところがコアラレトロウイルス(KoRV)は内在性レトロウイルスでありながら、病原性を保持しており、白血病や免疫不全などを引き起こしている。本研究では、KoRVを遺伝学的ならびに生物学的に解析し、病原性をもつ型(サブタイプ)を明らかにするとともに、KoRVの増殖を抑える抗ウイルス薬の探索を行うことを目的とした。本年度はこれまでの研究結果をもとに性質の異なるKoRVの感染性遺伝子クローンを作出した。それぞれの型に特異的なプライマーを設計し、忠実度の高いPCR用ポリメラーゼを用いてKoRV全長のcDNAを得た。得られたcDNAの塩基配列を決定しPCRによるエラーがないことを確認した後、ゲノムの両側にLTRをもつ感染性遺伝子クローンの形に組み直した。感染性遺伝子クローンのプラスミドをKoRVに感受性の細胞にトランスフェクトし、逆転写酵素活性、LacZマーカーレスキューアッセイ、イムノブロット法にて感染性を確認したところ、野生株と同様の感染性が確認できた。興味深いことにクローニングした感染性クローン由来のウイルスは、HEK293細胞では増殖したが、TE671細胞では増殖しなかった。