著者
松浦 伸也 宮本 達雄
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2010

紡錘体チェックポイントは、細胞分裂時に姉妹染色分体が正確に娘細胞に分配するために、分裂期中期染色体が両極性連結するまで染色体分配が生じないように監視する。紡錘体チェックポイントの構成因子BUBR1が先天的に欠損すると、高発がん性を特徴とするPCS症候群を発症する。本疾患患児は、悪性腫瘍のほかに、脳の形成不全や多発性腎嚢胞を合併する。このような多様な症状を示す理由はこれまで明らかではなかった。PCS症候群の症状が繊毛病の症状と似ていることから、BUBR1と繊毛の関係を解析した。その結果、通常は細胞表面に一本ずつ生えている一次繊毛が患者皮膚線維芽細胞では著しく低下することを見出した。繊毛は細胞外環境のセンサーとして細胞内シグナル伝達経路で中心的な役割を担っており、腎臓や脳などの臓器の形成で重要な働きをしている。BUBR1は分裂期に後期促進複合体APC/C^<CDC20>の働きを調節して紡錘体チェックポイントを制御するが、本研究により、GO期でさらに後期促進複合体APC/C^<CDH1>の活性を維持して繊毛形成に必須の機能を持つことが判明した。ヒトのモデル動物であるメダカでBUBR1を人工的に欠損させたところ、内臓逆位が高頻度に観察された。脊椎動物では、発生初期に繊毛を持つ組織が一時的に現れて、繊毛の回転によって水流が起こり、体の左右性が作り出される。BUBR1を欠損したメダカでは繊毛が生えないために水流が形成されず、そのために内臓逆位を引き起こすことがわかった。以上、本研究によりBUBR1は細胞増殖と分化を連係する分子であることが明らかとなった。

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