著者
中谷 こずえ 五十嵐 石塚
出版者
人間福祉学会
雑誌
人間福祉学会誌 (ISSN:13465821)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.67-74, 2021 (Released:2022-12-06)

矯正施設で社会復帰を目指す成人男性受刑者の健康実態と健康意識の現状を明らかにし、健康問題の観点から 健康を維持増進するための看護支援を明らかにすることを目的とした。全国56箇所の成人男性受刑者708名に対して、健康実態と健康意識についての質問紙調査を郵送法で行った。調査内容は、基本属性(年齢、施設での生活歴、前職業、過喫煙歴、BMI、現在歯数など)と、健康状態(精神・睡眠状況、食欲、身体活動量、・生きがい意識など)で構成した。統計解析には、275名(有効回答率38.8%)のデータを使用し、調査項目ごとに記述統計量を算出し、t 検定、相関関係、さらに関連要因を探索するため、重回帰分析も用いた。研究参加者の平均年齢は45.5±10.71歳であった。入所期間は、 5 年以上が半数(58.9%)であった。受刑前職業種では、土木業者や専門・技術職者(67.6%)が半数以上を占めていた。年代別現在歯数を一般値と比較した結果、30から50歳代(p<0.001)と70歳以上(p<0.05)は有意に低いことが示された。現在歯数を従属変数として重回帰分析では、年齢、排便習慣、食事摂取量が有意な負の標準回帰係数を示した。医療体制が十分ではない刑務所という環境下において、刑期が長期にわたり、加齢による変化は避けられない。また、歯の損失により、十分にかみ砕くことができないため、食事摂取量やさらには、排泄にも直接的に影響を及ぼすことが明らかになった。社会復帰を目指すためには、健康が保たれなければならない。そのため、精神・睡眠・身体活動量や生きがい意識にも働きかけながら、矯正施設内でも行える歯周病などの病気発症の予防ケアが求められていると考えられた。
著者
髙城 大
出版者
人間福祉学会
雑誌
人間福祉学会誌 (ISSN:13465821)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.93-99, 2020 (Released:2020-10-07)

本研究は、生活保護領域におけるソーシャルワーク実践の中で成立しているワーカーとクライエントとの関係性について、実践上な意味を改めて考え、その今日的な意義を明らかにし、実践的課題を考察した。援助関係には、クライエントの個別化を尊重し、協働作業を経て援助方針へと反映させるという意味があることを確認した。
著者
斎藤 洋
出版者
人間福祉学会
雑誌
人間福祉学会誌 (ISSN:13465821)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.103-106, 2023 (Released:2023-07-14)

本研究の目的は、リアリティショック(以下「RS」と表記)に関する過去の文献を概観し、介護職員を対象とした RS の構造と軽減・回避策を文献調査より明らかにし、今後の研究の必要性とその意義を検討することである。組織行動論研究や看護学領域と比較して介護分野の RS に関する先行研究は少なく、そのほとんどが、介護を学ぶ学生が実習時に経験した RS に焦点をあてたものだった。そこで、介護分野の先行研究に加えて組織行動論研究および看護学の RS に関する文献研究を行った。その結果、まだ明らかにされていない介護職の RS の構造を分析し、職場でのソーシャルサポートがRSの回避・軽減にどのように影響しているのかを検討することが必要だと結論付けた。
著者
田中 潤
出版者
人間福祉学会
雑誌
人間福祉学会誌 (ISSN:13465821)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.137-143, 2022 (Released:2022-06-07)

本研究は、要介護軽度者が地域生活を継続するために、ケアマネジャーが考える自立支援について、文献調査を通して検討することを目的とした。社会福祉領域の自立の考え方は、法律や制度などで、その目的や政策の中心として位置づけられることが多い。高齢者領域の自立は、高齢者自らの意思に基づき、質の高い生活を送ることであり、介護保険制度下で、その自立を支援することとされる。しかしながら、先行調査から、要介護軽度者の自立支援と重度化防止における見守り的援助の実施において、十分機能していないことが推察された。そのため、ケアマネジャーの要介護軽度者に対する自立支援の考え方やケアプランの実際の状況について明らかにする必要がある。また、ケアマネジャーが利用者との関係性を相互に積み上げ、軽度者が主体的になって、「共に」生活行為を行う支援過程を検討する必要があると結論付けた。
著者
横山 さつき 大橋 明 土谷 彩喜恵 海老 諭香 福地 潮人 堅田 明義
出版者
人間福祉学会
雑誌
人間福祉学会誌 (ISSN:13465821)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.39-48, 2022 (Released:2022-06-03)

高齢者介護に従事する介護職の倫理的行動に影響すると推定される共感的反応・行動の因子構造を明らかにす ることを目的として、A県下の特別養護老人ホームと介護老人保健施設(総数270施設)のうちの76施設(総数の28.1%) の介護職全数(3,142名)を対象として、独自作成の94項目から成る無記名自記式質問紙調査を実施した。有効標本 1,161(有効回答率40.0%)のデータを用いて探索的因子分析をした結果、20項目から成る 6 因子構造を抽出した。 6 因子の Cronbach’sα係数は.852~.934(全体.904)で、各因子の内的整合性が認められた。 6 因子を、「 1.ネガティ ブな感情の共有」、「 2.インテグリティ」、「 3.他者感情に対する敏感性」、「 4.協調性・融和性」、「 5.ポジティブな感 情の共有」、「 6.他者視点取得と共感的関心」と命名した。いずれも介護職の共感的反応・行動として解釈可能であり、 内容的に妥当であると考えられた。また、「インテグリティ」と「協調性・融和性」は介護職独自の因子であった。
著者
鴨野 直敏
出版者
人間福祉学会
雑誌
人間福祉学会誌 (ISSN:13465821)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.79-86, 2020 (Released:2020-10-07)

筆者は、A県内にある5か所の就労継続支援B型事業所の職員7名に半構造化インタビュー調査を行なった。抽出された要素から、職員の精神障害者への関わり方がどのように適切であれば労働生活の質(Quality of Working life)が向上するのかが理解できた。 先行研究において、職員と精神障害者が労働を通じて労働生活の質(QWL)の向上をはかっている面は理解できた。これらに加えて、筆者は職員の接し方について、ときには友人のように接することも必要になること、また、B型事業所は精神障害者にとっては、労働者性を一方において居場所として考えることが必要ではないかと考えた。つまり、これらは精神障害者の生活の質(QOL)向上を目指すことが同時に、その労働生活の質(QWL)を上げるという相互補完的議論が必要となってくることの方向性を論じたものである。