- 著者
-
池口 良輔
- 出版者
- 公益財団法人先端医療振興財団
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2008
近年,世界で30例以上の手同種移植成功例と数例の顔面同種移植成功例が報告されている。しかし、通常の免疫抑制療法には術後,感染や悪性腫瘍の発生など致命的な副作用があり,腎、肝,心肺移植などの生命維持器官の移植では,致命的副作用を伴う免疫抑制剤の使用は認められるが,生命維持器官でない四肢運動器官の同種移植では,免疫抑制剤の使用については議論の多いところである。一方、骨髄間葉系幹細胞(MSC)は、骨、軟骨、脂肪組織などへの多分化能を有し、採取分離培養が比較的容易な細胞として知られているが、移植医療分野では同細胞の免疫調節効果を用いた治療法が近年報告されてきている。今回我々は、免疫調節効果を持つ骨髄間葉系幹細胞を投与し、ラット四肢同種移植モデルでの拒絶反応の抑制効果を評価検討した。Lewisラットをレシピエントとし、Wisterラットの後肢の同種移植を行いMSC(2×10^6)と1週間のFK506(0.2mg/kg/日)を投与したものをMSC群(n=6)、同様に同種移植を行いFK506(0.2mg/kg/日)のみを投与したものをFK群(n=6)、コントロール群として免疫抑制療法を行わない群(n=6)とLewisラット間の同系移植群(n=6)を作成した。移植肢の生着期間を組織学的に評価し、拒絶反応の程度を免疫学的に評価した。移植肢の生着期間について、MSC群ではFK群に対して有意な生着期間の延長が認めら、組織学的にも拒絶反応が抑制されていた。免疫学的にもMSC群での拒絶反応抑制が確認された。MSCには免疫反応抑制効果があり、それによりラット四肢同種移植モデルでの生着期間が延長したものと思われる。運動器官の同種移植など通常の免疫抑制剤の使用が致命的副作用のため制限されるような場合、細胞を用いた新たな免疫抑制療法として間葉系幹細胞を応用できる可能性が示唆された。