著者
古川 貢
出版者
分子科学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

現在までに,ミクロンスケールの人工周期構造を有する強磁性パーマロイ(Fe_<20>Ni_<80>)の人工格子薄膜のX-band強磁性共鳴スペクトル測定により,2つの新しいモードが生じることを明らかにしてきた.このモードは,ミクロスコピックとマクロスコピックの中間領域であるセミマクロスコピックな量子機能と捉えることができ,このモードの詳細を解明することが目的である.そこで本研究ではESRイメージングという方法で,セミマクロスコピックスケールの新規量子磁気モードを可視化することを試みた.より大きな磁場勾配を作ることが,イメージングの分解能に直結する.高分解能ESRイメージングに必要な,大きな磁場勾配を作成するために,磁場勾配用コイルを検討した.単純なアンチヘルムホルツコイルでは勾配磁場の均一領域を稼ぐことができないことが明らかになった.つまり限られた空間のみを使用するためにイメージングを行うのに解像度が低くなるために不利である.そこで,MRIで開発された方法であるターゲットフィールド法を用いて最適な磁場勾配用コイルの形状を求めた.この方法を使用することで勾配磁場の均一な空間を大きく確保することに成功した.しかし,(1)ESR線幅が数百ガウス程度あること,(2)反磁場の影響でシグナルが大きく低磁場へシフトしてしまうという2点から,十分な分解能が得られない.これを回避するためには,高磁場ESRと高磁場勾配を組み合わせる高分解能ESRイメージングシステムの開発,もしくは,適当な物質を開拓する必要がある.そこで,高分解能ESRイメージングを目指して,Q-band ESRを使用した磁場勾配用コイルを開発へと発展させる予定である.
著者
魚住 泰広
出版者
分子科学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

平成23年度には、マイクロ流路内での膜状高分子錯体の調製(step1)、ナノパラジウム触媒膜の形成(step2)と、同膜触媒導入マイクロ流路デバイスを利用する反応実施(step3)の3段階について検討した。具体的にはstep1では高分子配位子として直鎖ポリビニルピリジンおよびテトラクロロパラデートをY字型マイクロ流路に導入しマイクロ流路層流界面上で良好な膜形成が進行した。流路内で調製した触媒膜を還元的あるいは熱的に分解することで高分子膜内でのパラジウムナノ粒子の発生を試みた(step2)。その結果、PVP-Pd膜を50℃、30分間、ギ酸ナトリウム水溶液で扱うことで比較的狭いサイズ分布を持ったナノPd粒子が発生することを見いだした。さらに流路内に調製したナノPd膜を備えたマイクロ流路反応装置を利用し、幾つかのPd触媒工程をフロー型反応として試みた(step3)。その結果、ハロアレーン類の還元的脱ハロ反応がギ酸を還元剤として有効に働くことを見いだした。すなわちハロアレーン水溶液とギ酸水溶液をマイクロデバイスY字同入口から各々加えたところ室温で反応は速やかに進行流路内の保持時間僅か2-5秒で定量的に脱ハロ生成物を与えた。芳香族ハライドの置換基として電子供与性、電子求引性、オルト位、メタ位、パラ位に関わらず反応は良好であり、また芳香環上に複数のクロロ基を有する基質も良い反応性を示した。さらに本反応はハロアレーン濃度が10ppm程度でも問題なく進行した。
著者
柳井 毅
出版者
分子科学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

高スケーラブルな新規電子相関計算法の基礎理論として、電子相関計算のボトルネックとなる積分変換計算を効率化するような「局所ハミルトニアン法」を提唱し、その基礎理論を確立した。本提案手法では、この変換計算に対して、局在化分子軌道を変換基底として利用し、基底空間を区分けし、各区分けで小さな積分変換を行う。そして区分同士の相互作用も低次まで考慮する積分変換を行う。局所ハミルトニアン法の基礎理論を計算機上に実装し、その性能を評価した。(LiH)n鎖をテスト分子として、局所ハミルトニアン法による積分変換計算の計算コスト(総flop数)を見積もった。見積もりでは、ハミルトニアン分割での打ち切りを判定する敷居として、分割領域の二組(IJ)の空間的距離が15bohr以内の組み合わせのみを考慮し、さらにScwarzの公式を用いたprescreeningを施した。長鎖の(LiH)nに対して、総flops数は、鎖長に対して良好な低次スケーリングを示し、ほぼlinear scalingな計算コストであった。従来のo(N^5)の計算コストである計算法と比較して、局所ハミルトニアン法の計算は、n=15~20程度ですでに効率よい計算であることを示した。上の開発で得られた、局在化分子軌道ベースの打ち切り近似ハミルトニアンを利用することで、Pulay、Wernerらの局所電子相関法LMP2法を実装することができる。PulayやWernerらによる実装は、積分変換が難所であったが、本研究では「局所ハミルトニアン」をその強力な処方箋として大規模計算に活用できると期待される。DNA Base-Pairをテスト分子として、Base Pairの相互作用エネルギーをLMP2により求めた。局所ハミルトニアンの分割として2種類の分割様式を試したが、分割様式によらず二種類の計算は誤差が少なく良い一致を示した。分割ではBase Pairの水素結合を切っているが、従来型のMP2計算の結果と比較しても遜色ない精度を算出することを確認した。以上の結果から、本手法の基礎的なアルゴリズムは大まかに形成されたと言える。