著者
谷本 晃久
出版者
北海道大学文学研究科北方研究教育センター
雑誌
知里真志保 人と学問 : 生誕百周年記念シンポジウム予稿集
巻号頁・発行日
pp.17-26, 2009-02-22

知里・小田『ユーカラ鑑賞』(昭和31年)に関する思い出(石森延男/藤女子大学)同書所収「松前の若殿が所作しながら歌った神謡」の最近の評価(佐藤2007)・「知里は、この神謡が歴史的事実を反映して語られていると考えている」「知里は、アイヌの口頭伝承からアイヌの歴史を読み解くということを、説いたのである」「『松前の若殿が所作しながら歌った神謡』は、和人の侵略が始まって以降の神謡であることは明確であるし、その物語の具体性から、この神謡が実際に起こったことをモデルにしていると考えることは不自然なことではない」・「松前の若殿が所作しながら歌った神謡」は「ホロベツに伝承された神謡」(『ユーカラ鑑賞』)。知里氏の幌別をフィールドにした研究は、『アイヌ民譚集』などの口承文芸のみではなく、佐藤三次郎との協業を含む民族(民俗)誌研究や山田秀三との協業を含む地名(地誌)研究にそのウイングが広がっている。・報告者は、口承文芸研究の歴史性に関する見識を持つものではないため、文献史学の側から直接参考とした知里氏の民族誌研究、とりわけ漁場儀礼に関するそれを取り上げ、お話し申し上げたい。
著者
加藤 博文
出版者
北海道大学文学研究科北方研究教育センター
雑誌
知里真志保 人と学問 : 生誕百周年記念シンポジウム予稿集
巻号頁・発行日
pp.27-31, 2009-02-22

知里真志保のアイヌ語研究に残した功績は、述べるまでもなく大きなものがある。しかし既に多くの人々が指摘しているように、その論の及ぶ範囲はひとつ言語学に止まることなく、アイヌ民族誌やアイヌ史にも及んだ。早すぎるその死のために形となることはなかったが、もし出版が企画されていた岩波新書『アイヌ』がまとめられていたならば、われわれは知里真志保の描いていたアイヌ学の全体像を知ることができたであろう。残された知里真志保の著作を辿ると、彼にとってのアイヌ語が言語学の枠を超えて、アイヌ民族の歴史や精神世界をその射程に入れたものであったことを知ることができる。彼にとってのアイヌ語は、知里アイヌ学へ接近するための方法としての言語学であったのではないかと思われるのである。本報告では、若き日の知里真志保を取り巻いた人々の知里真志保に期待したものとはなんであったのか、1920年当時のアカデミズムのアイヌ民族への視線について考察を試みたい。次いで樺太時代から戦後の知里真志保の著作を辿ることで、彼を取り巻くアカデミズムの雰囲気に対する知里真志保の苦悩と、彼の目指したアイヌ学の構図を探りたい。そして最後に彼の軌跡から、そして近年、意識的に論じられるようになった先住民族と研究の関係、研究倫理の問題に言及することで、知里真志保の望んだ「アイヌ研究を正しい軌道にのせるために」という思いに近づきたいと思う。