- 著者
-
坂本 雅子
- 出版者
- 名古屋経済大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1995
本研究の目的は、日中戦争以後のアジアでの財閥商社の活動を明らかにすることであり、三井物産の活動を事例にして研究をおこなった。分析の重点は、戦時下での軍部と一体となった活動においた。たとえば、財閥商社が軍の依穎・命令によって中国で従事した農産物の収買活動や、アジア地域での物資流通一特にベトナム・タイから日本・中国への食糧輸入等-で果たした役割を明らかにした。占領地への食糧確保こそ現地軍の食糧補給と占領地の治安確保にとって最も重要であり、戦争の帰越を決するものであったが軍部は一貫して財閥商社一特に三井物産と三菱商事に全面的に依拠せざるをえなかった。また軍配組合の活動も占領地の軍票の価値を維持し、食糧などの物資収買を行うために重要なものであったが、ここでも三井物産を中心とした商社の役割は大きかった。本稿ではまた、戦時下の三井物産のアヘン取扱いについても明らかにした。日中戦争において日本軍はアヘン売却しその利益を機密費等に使用したり、戦地での物資収買にあたって 通貨がわりとして利用するなどしたが、このアヘン売買を中心となって担ったのが三井物産であった。三井物産がアヘン売買に関与したことは極東国際軍事裁判での供述によって、以前から知られていたが、本研究は三井物産の内部資料で初めてその全容を明らかにした。以上のように、アジアで、軍部と結びつき戦争遂行の重要な役割を担うとともに、戦争犯罪の最も汚れた部分をも担った戦時下の三井物産の活動を解明した。