著者
杉野 隆一
出版者
埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所)
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

生物の進化は種内に存在する遺伝的変異の集団内での拡散によって起こる。遺伝的変異に働く自然選択は進化的に有利なもの、不利なもの、中立なものに分けて考えられる。有利な突然変異率は小さいものの、正の自然選択により短期間で固定する。不利なものは固定しづらいが率が高いため影響は無視できない。有利な突然変異が頻繁に起こると変異同士が干渉し合うため固定確率が下がる。これはclonal interference(CI)と呼ばれ、有効な集団サイズが大きな生物で見られる現象だと考えられている。ここで組換えが起こると有利な変異は独立に固定することができ、より多くの突然変異が集団中に固定することができる。同じ状況は有害な突然変異についても起こる。集団内の有害な突然変異率が高いとほとんどの個体がなんらかの有害な変異をもつため有害な変異でも固定する。固定した変異は組換えがなければ集団から取り除けないので、次々に蓄積してしまう。この不可逆な進化はマラーのラチェットと呼ばれている。いずれの場合でも、組換え自体が中立でも結果的には有利なシステムとなる。本研究ではシミュレーションを用いて、上の理論が自然界で当てはまるのかを検証した。パラメーター(突然変異率、有効な集団の大きさ、組換え率)はバクテリアで観察されるものを用いた。まず、有利な突然変異では、CIは組換えが起こらない状況で最も影響を及ぼすが、変異率が大きくなりすぎると再びCIの影響が強くなり、有利な変異の固定確率が中立なものと変わらなくなることがわかった。そして、バクテリアのパラメーターは、組換えが有利に働く幅に収まっていた。有害変異においても変異率があがると固定確率は中立に近づいた。そして、観察される組換え率では固定率は下げられていた。以上のことから、バクテリアにおいて組換えは進化的に有利に働いていることが示唆された。
著者
冨尾 賢介
出版者
埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所)
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

子宮内膜症は慢性炎症性疾患であり新規治療法が待たれる。本研究では、オメガ3脂肪酸(以下ω3FA)の子宮内膜症抑制効果をin vitroで検証した。子宮内膜症患者の培養腹腔マクロファージ(以下Mφ)をω3FA処理下にLPSで刺激したが、TNF-α産生は抑制されなかった。そこでω3FAがMφのインフラマソーム活性を抑制し、IL-1β産生を抑制することに着目した。ω3FA処理下では、ニゲリシン刺激(インフラマソーム活性化の試薬)に対する培養腹腔MφからのIL-1β産生は抑制された。ω3FA はMφのインフラマソーム活性を抑制することで子宮内膜症の炎症を抑制し、新規治療戦略に繋がる可能性が示唆された。