- 著者
-
小林 典子
- 出版者
- 大谷女子大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2005
平成17,18,19年度と3ヵ年を通し、研究実施計画にもとづいて所定の調査研究を予定どおりとりおこない、また、研究業績をあげることができた。具体的には、(1)まず貴婦人の都の画家工房オリジナル作品のほぼすべての調査を完成することができた。その結果、当画家の最晩年1410-1415頃にかけて、一方でブシコーの画家、他方で作家クリスチーヌ・ド・ピザンとの密なる連携を想定させる新しい傾向-最新の彩色手法-が生じていることを確認することができた。さらにその成果を、最重要作品である大英図書館Harley4431写本のモノグラフ研究として諸論文に著し(とりわけ、フランスの学術雑誌Art et l'enluminure誌に発表)、学会発表することができた。(2)近年提起され、現在その解明がもっとも急がれるものとして浮上してきている課題(ブシコーの画家と貴婦人の都の画家がともに聖母戴冠の画家に端を発する系譜上にあるとする仮説)を精査するため、聖母戴冠の画家オリジナル作品の全調査にとりかかり、米国の2点をのぞき予定通りほぼ終えることができた。その結果、この時期彩色技法と顔料の抜本的改革が進行してきていることを確認し、その成果を論文に著した。(3)さらに、現在まで研究進捗がみられなかった同時期のパリ写本工房技法に関連する古文献(ジャン・ルベーグの絵画技法書)解明へと歩を進め、現時点までの知見を論文にまとめることができた。以上の(1)(2)(3)の成果をふまえ、今後は前エイク期におけるパリ写本彩飾挿絵の研究方向を聖母戴冠の画家系譜に関する研究、とりわけブシコーの画家工房をも含めた彩色法coloris解明に特化した研究へと進める足がかりを得ることができた。