著者
犬木 努
出版者
大谷女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

3ヶ年に及ぶ当該研究の最終年度である本年度は、下記のような研究を実施した。昨年度に引き続いて、いわゆる下総型埴輪およびその前段階の埴輪についての詳細な資料調査を実施した。具体的には千葉県人形塚古墳出土埴輪、同金塚古墳出土埴輪、同羽黒前古墳出土埴輪、埼玉県杉戸町目沼瓢箪塚古墳出土埴輪の円筒埴輪・形象埴輪についての悉皆調査(調査検討・観察・写真撮影・調書作成・計測)を行った。これらの資料調査は本年度でほぼ終了し、現在までにこれらの調査記録や写真資料の整理作業もほぼ終了している。このほか、本年度は、下総型埴輪の対照資料として、宮崎県西都市西都原171号墳出土の円筒埴輪・形象埴輪の本格的研究に着手した。数次にわたる調査を経て、各埴輪についての検討・観察・写真撮影・調書作成・計測を行い、大半の作業を終了させることができた。本年度も含めて、この3ヶ年の調査・研究を通じて、特定埴輪工人集団の内部構造の解明を大きく進めることができた。関東地方においては、いわゆる下総型埴輪およびその直前段階の埴輪の製作に携わった埴輪工人集団の全体像及び内部構造を「工人レベル」で解明することができた。また南九州地方では、西都原古墳群出土埴輪の製作に携わった埴輪工人集団の内部構造を「工人レベル」で解明することができた。両地域での分析を踏まえ、同様の分析手法を他の地域・時代に適用することによって、さらに大きな成果を得ることができると考えている。なお、本研究の成果を踏まえて、2月5日〜6日にかけて、葛飾区立郷土と天文の博物館において開催された第6回埴輪研究発表会にパネラーの一人として参加し、「下総型埴輪再論-同工品識別の先にあるもの-」と題して発表を行った。また2月13日には、宮崎県立西都原考古博物館において、「西都原古墳群の埴輪を考える」と題する講演を行った。
著者
小林 典子
出版者
大谷女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

平成17,18,19年度と3ヵ年を通し、研究実施計画にもとづいて所定の調査研究を予定どおりとりおこない、また、研究業績をあげることができた。具体的には、(1)まず貴婦人の都の画家工房オリジナル作品のほぼすべての調査を完成することができた。その結果、当画家の最晩年1410-1415頃にかけて、一方でブシコーの画家、他方で作家クリスチーヌ・ド・ピザンとの密なる連携を想定させる新しい傾向-最新の彩色手法-が生じていることを確認することができた。さらにその成果を、最重要作品である大英図書館Harley4431写本のモノグラフ研究として諸論文に著し(とりわけ、フランスの学術雑誌Art et l'enluminure誌に発表)、学会発表することができた。(2)近年提起され、現在その解明がもっとも急がれるものとして浮上してきている課題(ブシコーの画家と貴婦人の都の画家がともに聖母戴冠の画家に端を発する系譜上にあるとする仮説)を精査するため、聖母戴冠の画家オリジナル作品の全調査にとりかかり、米国の2点をのぞき予定通りほぼ終えることができた。その結果、この時期彩色技法と顔料の抜本的改革が進行してきていることを確認し、その成果を論文に著した。(3)さらに、現在まで研究進捗がみられなかった同時期のパリ写本工房技法に関連する古文献(ジャン・ルベーグの絵画技法書)解明へと歩を進め、現時点までの知見を論文にまとめることができた。以上の(1)(2)(3)の成果をふまえ、今後は前エイク期におけるパリ写本彩飾挿絵の研究方向を聖母戴冠の画家系譜に関する研究、とりわけブシコーの画家工房をも含めた彩色法coloris解明に特化した研究へと進める足がかりを得ることができた。
著者
宇都宮 啓吾
出版者
大谷女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

従来より纏まった形ではその全体像を把握し難い天台宗系統の訓点資料の研究を行ない、現在は天台真盛宗総本山西教寺の聖教に注目して、天台宗山門派の聖教を個別に調査して来た。その結果として、西教寺正教蔵に存する訓点資料の全ての抽出とその書誌的データと目録化、および、南北朝以前の訓点資料を含めた古写本全ての撮影とデジタルアーカイブ化が完了した。また、その成果を踏まえて、以下の如きことも明らかになった。(1)西教寺聖教の中の正教蔵とされる聖教が比叡山西塔北谷正教坊を由来とする聖教であること。(2)その実態は天台僧舜興によって集書され、舜興は比叡山葛川の総一和尚となるなど、幅広く活躍する人物として多くの聖教を収集できる立場にあったこと。(3)西教寺正教蔵に存する訓点資料の具体的な把握が可能となった。(4)更に、特に注目される個別の訓点資料(具体的には、『無量義経疏』寛平点・『妙法蓮華経』院政期字音点等)に関する国語学上の意義付け。(5)比叡山における聖教調査における里坊を視野に入れた調査の重要性上記の如く、西教寺正教蔵の解明が比叡山西塔北谷正教坊の解明へと繋がり、更には、天台宗山門派系統の聖教解明として発展できることが明かとなり、目録が公開されることによって、他の研究者にも大きく寄与出来るものと思われる。