著者
上野 隆弘 Ueno Takahiro
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科『共⽣学ジャーナル』編集委員会
雑誌
共生学ジャーナル (ISSN:24326755)
巻号頁・発行日
no.3, pp.96-117, 2019-03

論文本稿では、ミシェル・セールをガストン・バシュラールの後継者として位置付け、エピステモロジーの一系譜を描きだすことを目標とする。一般的にライプニッツ主義者として知られているセールであるが、初期の仕事はバシュラールの影響を受けていた。本稿では、四つのテーマのもと両者の関係性を探究する。はじめに、バシュラールの設定した科学と詩の分割を確認し、両者を統合しようとするセールの議論を追う。次に、その統合の結果として提示されるセールの新しい科学史観を確認する。その後、セールによるバシュラールのイデオロギー批判を論じ、最後に、セールがどのようにバシュラールが保持していた主観性の哲学を抹消するのかを示す。The aim of this paper is to determine Michel Serres as a successor of Gaston Bachelard and present a genealogy of epistemology[épistémologie]. Generally speaking Serres is known as a Leibnizian, but his early works are influenced by Bachelard. We inquire their relationship under four themes. Firstly, we confirm Bachelard's division of sciences and the poetry and follow Serres's discussion that tries to unite these two fields. Secondly, we confirm Serres's new perspective of history of science as a result of this union. Thirdly, we discuss the Serres's criticism against Bachelard's ideology. Finally, we present how Serres erases the philosophy of subjectivity that Bachelard maintains.
著者
辰己 一輝 Tatsumi Ikki タツミ イッキ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科『共⽣学ジャーナル』編集委員会
雑誌
共生学ジャーナル (ISSN:24326755)
巻号頁・発行日
no.5, pp.22-48, 2021-03

論文本論文は、今まで国内で周知されてこなかった2000 年代以降の障害学の理論的動向の紹介を試みた。そのために本論文は、第二節で「批判的障害学(CDS)」と呼ばれる、障害学内で新たに生じた学際的研究の諸特徴を整理することから出発した。続く二つの節で、本論文はCDS 以後の障害学の展開の一端を跡付けた。第三節では、クィア理論と障害学とが交差することで生じた「クリップ・セオリー」と呼ばれる一連の研究について概説した。第四節では、社会だけではなく身体の変化可能性を直接記述しようと試みる、障害に対する唯物論的アプローチについて概説した。最後に、現代の障害学が取り組み続けてきた問題を「言説と身体」・「理論と実践」という二分法をいかに乗り越えるか、という観点から総括した。
著者
佐原 浩一郎 Sahara Koichiro サハラ コウイチロウ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科『共⽣学ジャーナル』編集委員会
雑誌
共生学ジャーナル (ISSN:24326755)
巻号頁・発行日
no.5, pp.137-161, 2021-03

論文ドゥルーズは、ライプニッツ的な最良の共可能的世界における「劫罰に処されるもの」を、その世界の進歩を単独で引き受けているものとして理解し、そこに諸世界間の差異であるはずの非共可能性を見てとっている。このような解釈を可能にしているのが、不可能性とは区別される非共可能性についての厳密な理解であり、魂が自らの全体を表現することとしての自由についての認識である。劫罰に処されるものと類比される人物としての、プラトンにおけるソフィストを、ドゥルーズは、プラトン哲学の転倒の作業のなかで叙述していたが、劫罰に処されるものは、ライプニッツ哲学を逸脱することなく語られている。
著者
得能 想平 Tokuno Sohei
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科『共⽣学ジャーナル』編集委員会
雑誌
共生学ジャーナル (ISSN:24326755)
巻号頁・発行日
no.3, pp.76-95, 2019-03

論文実存主義、構造主義、ポスト構造主義によって知られるフランス現代思想は、当時の伝統的なカント主義の批判から出発した「アヴァンギャルド」として見なされることが多かった。しかし、テクストを注意深く読むならば、そこにはまさにそのようなカント主義との関連を示唆するものも少なくない。本稿は、このような背景のもとで、これまでほとんど忘れられていたマルシャル・ゲルーの『ザロモン・マイモンの超越論的哲学』における時間と空間の概念を取り上げなおすものである。この書物に見いだされる、無限悟性を前提とした時間と空間の考え方は、カント主義と現代思想のあいだにこれまで見過ごされていた連続性を見いだす機会を与えるものである。