著者
須見 洋行 赤木 玲子 H P Klocking 中島 伸佳 浜田 博喜 KLOCKING H P KLOKING H.P.
出版者
岡山県立短期大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1990

日本の伝統食品納豆より分離された新規の線溶酵素ナットウキナーゼは分子量約2万,等電点8.6で,血栓(フィブリン)に対する強力な分解活性の他,プラスミン基質であるH-D-Val-Leu-Lys-pNAへの反応性を示した。しかし,プラスミンのタイトレーターp-nitrophenyl-guanidinobenzoate(NPGB)には働かず,N-trans-cinnamoylimidazoleによるタイトレーションで53.0%activeであった。NKをLys-peptidase処理して得られた9個のペプチドを分析し、NKはN末端にAlaを持ち,S-S結合のない27個のアミノ酸からなるセリン酵素であること,従ってこれまでのいかなる線溶酵素とも異なり,分子内に“kringle"を持たない一本鎖ポリペプチド構造であることを明らかにした。納豆から得たPoly-Gluを含むNK-rich蛋白をウイスター系ラットに3ケ月間わたり経口投与した(4.8万単位/kg)。その結果,血漿ELTの著しい短縮(p<0.01),pyro-Glu-Gly-Arg-pNA及びH-D-Val-Leu-Lys-pNAでみた血漿アミダーゼ活性の増加(p<0.01)に加えて腎及び肺の組織プラスミノーゲンアクチベーター活性(t-PA)の亢進(p<0.1)を確認したが,血液凝固系であるAPTT及びRe-Ca^<++>Tの変化はなかった。また,純化したNKの腸溶カプセルをボランティアーヘ投与をした結果,血漿EFAの増加と共に血中での血栓溶解を示すFDP抗原量の著しい増加(p<0.001),さらにはendogenous酵素の産生を示すt-PA抗原量の増加(p<0.005)を確認した。今後さらに例数を増やし検討する必要があるが,以上の結果よりNK(あるいはNK-rich納豆)は血栓症の治療剤として,あるいは予防目的の機能性食品素材としてその応用開発が大いに期待できる。
著者
犬飼 義秀
出版者
岡山県立短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本年度は、前年度の「児童期における社会性の発達」「仲間集団における社会性の発達」に関する諸理論を、子供の日常生活に求めた。まず、平日・土曜日・日曜日の生活時間および、家庭学習、塾・習い事、テレビ視聴、遊び、スポ-ツ活動等について650名の小学生(4〜6年生)を対象に調査を実施した。その結果、塾通いや習い事が日常化しており、友人仲間それぞれのスケジュ-ルが異なり、共通して遊べる時間あまりなく、集団的な遊びが弱体化している。現代の子供達の遊びは、全体として(1)室内において、(2)少人数で、(3)活動量の少ない、(4)商品化された物を相手に、(5)受動的な遊びが多くなっている。しかし、一方では外遊びと家の中での遊びとでは、外遊びを好み、遊ぶ人数では、より多くでの遊びを好んでいる。このように戸外で多人数の遊びを求めながら、家の中での遊びが中心であることは、子供達が友達と遊べなくなったというよりも、遊べなくなったという深刻な問題がある。このように、遊び活動の衰退は、仲間集団の形成を阻害し、形成されても脆弱化する。次に、こうした仲間集団の具体的状況を、子供スポ-ツ集団の事例的研究に求めた。その結果チ-ムメイトは、クラス内においては好きな友達として上位に選択される。しかし、チ-ム内における相互選択では、レギュラ-はレギュラ-を、イレギュラ-はイレギュラ-を選択するというスポ-ツ集団における層化した人間関係の構造が存在する。さらにレギュラ-同士の人間関係は強いが、イレギュラ-同士の関係は弱い。二層分化したレギュラ-とイレギュラ-を結ぶ関係が弱いことは、集団全体の課題達成や統一維持にとって問題である。レギュラ-・イレギュラ-という層化した人間関係の構造は、地位構造・勢力関係にも反映されている。レギュラ-間における地位ランクは、技能、活動に対する知識水準の高い者と、キャプテンというオ-ソライズされた地位付与者が上位にある。このことは、レギュラ-成員は、活動や勝利という課題達成の遂行者を上位にランクしていることがわかる。一方、イレギュラ-間の地位ランクは、レギュラ-で自分たちとの人間関係の強い者が上位にランクされている。地位ランクの上位者は、スポ-ツ集団におけるリ-ダでもある。リ-ダ-シップ機能には、集団の目標達成機能と統一機能とが見られる。レギュラ-間においては課題達成機能が、イレギュラ-間では統一維持機能がより重要視されている。特に、イレギュラ-は、やさしく・親切な成員をリ-ダ-の選択基準にしている。このように子供スポ-ツ集団の内部に、二層分化の構造が生まれる背景には、過度な勝利志向と技術的上達を求める監督・コ-チの指導態度が強く関係している。今回対象にした子供の発達段階からすれば、親の庇護を離れて仲間の世界へと入っていき、仲間との共通の基盤の上に立ち、大人への全面依存からそれを断ち切り精神的自立の達成を課せされた時期である。現代の子供の人格発達のゆがみは、基本的には子供集団と子供文化が存在していないこと、その中での能動的な活動が保障されていないことから派生されている。学校の週休2日制を前に、地域における子供集団とその文化の再生についての検討が必要である。