著者
彭毛 夏措
出版者
日本福祉大学大学院
雑誌
日本福祉大学大学院福祉社会開発研究 = The Study of Social Well-Being and Development, Nihon Fukushi University Graduate schools (ISSN:24362018)
巻号頁・発行日
no.16, pp.33-42, 2021-03-01

都市への人口流動が激しい中国社会において,西部大開発の実施に伴い,生態移民政策が西部地区の広い範囲で実施され,農村・牧畜地域の人口流出がさらに進んだ.もともと西部地区の環境保護と貧困削減を解決するために実施された生態移民政策であったが,現在では,移住先の都市部で住民はさらなる貧困に陥る一方,原住地は牧畜地の過少利用による過疎化が進み,砂漠化などの環境問題に直面している.本稿は,現在西部地区のうち世界的に注目されている青海省チベット地区の生態移民政策に焦点を当てたものである.本稿の目的は,生態移民の流れと今後の方向性について,「環境保護」と「貧困削減」の2側面から検討し,先行研究(文献および統計資料)を通して生態移民の生活課題を明らかにした上で,両政策の統合に向けて必要な支援策を考察することにある.
著者
山本 泰雄
出版者
日本福祉大学大学院
雑誌
日本福祉大学大学院福祉社会開発研究 = The Study of Social Well-Being and Development, Nihon Fukushi University Graduate schools (ISSN:24362018)
巻号頁・発行日
no.16, pp.11-20, 2021-03-01

本研究は,高齢者の社会活動に向けた支援を検討する為の一研究とし,参加パターンとSense of coherence(SOC)との関連を明らかにすることを目的とした.要支援・軽度要介護者110名を対象に, SOCスケールと構造化面接を実施し,類型化した参加パターンとSOCとの関連を分析した.結果,参加パターンは継続群,再開群,不参加移行群,不参加継続群の4つの基準で分類され,不参加継続群以外でSOC下位因子間での差が有意に認められた.また,処理可能感では,不参加継続群よりも継続群と再開群が,有意味感では,不参加移行群,不参加継続群よりも継続群,再開群が有意に高い結果が得られた.要支援・軽度要介護者の社会活動促進に向けてSOCなかでも「処理可能感」「有意味感」を高める支援が有効である可能性が示唆された.
著者
田中 結香
出版者
日本福祉大学大学院
雑誌
日本福祉大学大学院福祉社会開発研究 = The Study of Social Well-Being and Development, Nihon Fukushi University Graduate schools (ISSN:21874417)
巻号頁・発行日
no.14, pp.25-34, 2019-03-20

【目的】 医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)には,医療現場に勤務する福祉専門職として多職種連携強化のための重要な役割が求められている.医療環境の変化に対応する中で,様々な業務上の不安を抱え仕事を続けている.本研究は,MSW支援のあり方を検討する基礎資料として, メンタリングとスーパービジョンに焦点を当てて,MSW自身の業務不安解消に向けた精神的支援に関するMSWの認識を明らかにし,その対応方法を検討することを目的とした.【方法】 MSWが在籍するA県内の病院のうち6病院を無作為に選び,そこに勤務するMSW6人を対象とした。経験年数を考慮し3人1組とした2グループに分け,フォーカス・グループ・インタビューを実施した.【結果】 自己研鑽のための研修の機会や,いつでも相談できる職場環境が必要であり,スーパービジョンに対する期待も高かった.しかし,スーパーバイザーへ相談するには精神的なハードルが高く,スーパーバイザーとスーパーバイジーとの関係性に課題があることも明らかとなった.【結論】 MSWの業務不安はスーパービジョンにより対応することを前提に、メンタリングによる補完が重要である。特に、MSWの精神的支援には,気軽に相談できるメンターの存在も重要であることが明らかとなった.職場にMSW複数人配置するなど働きやすい職場環境を構築するとともに,自身のメンターを見つけ出し,メンタリングを受けられる体制整備も重要と考えられた.
著者
田中 紗和子 中村 美緒
出版者
日本福祉大学大学院
雑誌
日本福祉大学大学院福祉社会開発研究 = The Study of Social Well-Being and Development, Nihon Fukushi University Graduate schools (ISSN:24362018)
巻号頁・発行日
no.17, pp.51-59, 2022-03-01

本論文の目的は,地域における支え合いの基礎となる「人々の関係」に着目し,地域における作業療法での作業の特徴と役割を明らかにすることである.方法は,日本の作業療法創設期から刊行されている 3 誌を対象とした文献調査である.分析では,実施場所ごとの作業療法実践の比較から,近年の作業療法の動向を把握した上で,作業を介した人々の関係,意識と行動,関係や場の経時的変化といった視点から実践事例を捉え直し,地域における作業療法での作業の特徴と役割を明らかにした.その結果,日本では,高齢化社会を目前に控え,2000 年代以降,病院・施設から地域生活へと支援の中心が移行しており,それに応じて,作業療法の対象や領域,手段も多様化し,実践の場も病院・施設から地域へと拡大していることが示唆された.地域における作業療法では,障害の有無や立場に関係なく参加者が共に作業を展開する場づくりが多く行われていた.作業は,共通の話題や共感の対象となることで,自然な交流を促すという特徴を生かし,人々の関係や,意識と行動に変化をもたらす役割を果たしていた.また,作業を介して時間と場所を共有することの積み重ねは,支え合う関係や心の拠り所となるような場の変化を生みだしていた.地域における作業療法では,人々の関係に目を向けることの重要性が示された.