著者
田島 貴裕
出版者
日本通信教育学会
雑誌
日本通信教育学会研究論集
巻号頁・発行日
vol.23, pp.37-48, 2012-06-30

遠隔高等教育に関する研究として、授業デザイン、教授─学習活動、学習効果、メディア技術に関する研究は多いが、社会システムや教育制度の枠組みのなかで、遠隔高等教育の存在意義や位置付け、伝統的な高等教育との関連性など、マクロ的な視点からの理論的考察は多くはない。日本では、通信制大学と通学制大学は戦後から明確に区分されてきたが、インターネットの発展・普及によってそれらの「ボーダーレス化」が起こり、今後も進行することが予想される。通信制大学と通学制の大学のボーダーレスが進行する中で、各々に対する学習者からの需要はどのように変化していくのであろうか。現代日本の遠隔高等教育の需要構造を捉えるためには、高等教育システム全体の中で、通信制大学と通学制大学の関連性に着目し、各々の意義や区分についての考察が必要である。そこで、本稿の目的は、「通信制」と「通学制」のボーダーレス化により変化している、学習者の教育需要構造に関する概念モデルを提示し、「通信制」と「通学制」の関係を教育市場のなかで捉える意義を提起することにある。論考の手順は、まず、議論の下地となる、遠隔教育の定義および考え方について、遠隔教育理論の先行研究から整理する。次に、現代日本における遠隔高等教育の現状とボーダーレス化の観点から行われた先行研究について整理する。そして、ボーダーレスの枠組みを精緻化し、日本における遠隔高等教育システムをより明確に捉える理論として確立したうえで、その理論を土台とした遠隔高等教育の需要構造に関する概念モデルを提示し、検討を行う。