著者
佐藤 保 齊藤 哲 江藤 幸二 加藤 省三
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.105-112, 2005-12-25

宮崎県高岡町の林木遺伝資源保存林内に設置した1.Ohaの試験地において1998年と2001年に毎木調査を行い,その個体群構造と動態の解析を行った。1998年から2001年の3年間における枯死率は,1.54%year^<-1>であり,同時期の新規加入率である1.32% year^<-1>を上回っていた。DBHサイズおよび階層別に枯死率を比較すると,亜高木層に属する小径木(DBH15cm未満)で最も高い値を示した。優占度指数の最も高いイスノキは,安定した個体群構造を示し,今後も本試験地の優占種として維持されるものと考えられた。イスノキに次ぐ優占種であるウラジロガシは,小径木個体(DBH15cm未満)が林冠ギャップを中心に生育しており,その個体群構造は過去の撹乱履歴を反映しているものと推察された。試験地から約18kmほど離れた成熟林分との比較から,欠落(マテバシイ)もしくは優占度の低下(ホソバタブやバリバリノキ)を示す種があり,種組成の面でも過去の撹乱の影響を受けていることが考えられた。生育する各樹種の最大DBHサイズや種構成などから,調査林分は過去に人為撹乱を受けた老齢二次林であると推察された。
著者
丸田 恵美子 紙谷 智彦
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.43-52, 1996-09-15
被引用文献数
5

太平洋型ブナ林とみなされる神奈川・山梨県境の三国山において,豊作年の翌年の1994年に,ブナの実生の発生・定着過程を追跡調査した。実生の枯死要因としては,乾燥死・動物害・虫害・菌害が認められた。発芽時前後の動物による堅果の持ち去りや,発芽直後の動物による被食や根の乾燥死も,それぞれかなりの割合で発生し,太平洋型気候のもとで積雪の少ないことが,実生の生存に対して不利に働くことを示した。しかし一年目の生育終了時の生存実生密度は,順調な更新を行っている日本海型ブナ林に比して同等か,それ以上であって,ブナ林の更新に対して,その最初の段階である健全堅果の供給と当年生実生の発生・定着過程において,1994年のコホートについては主要な阻害要因はないと結論づけた。三国山の調査地はブナを含めた立木密度が3195本/haと高く,林床の相対照度が平均2.2%と暗いことから,2年目以降の実生の生育が順調に行えない可能性がある。