著者
星野 義延 笠原 聡 奥富 清 亀井 裕幸
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.62-72, 1996-09-15 (Released:2017-04-03)
参考文献数
24
被引用文献数
4

建設残土によって造成された東京湾の臨海埋立地のひとつである大井埠頭の一角にある樹木侵入期の草原において,樹木の侵入と定着についての調査を1986年に行った。調査地はヨシ,セイタカアワダチソウ,チガヤ,オギなどの地下茎で繁殖する風散布型の多年生草本植物の優占する群落が形成されており,樹木はその中に点在していた。樹木個体の分布は電線の下や排水溝がある場所で多くなる傾向が認められ,これらの構造物の存在が調査地の樹木個体を多くしている要因と考えられた。樹高3m以上の樹木の位置は,調査地に設けられている排水溝の近くに分布する傾向が認められた。出現した樹木のほとんどはヤマザクラ,エノキ,マルバシャリンバイ,ネズミモチ,アカメガシワなどの動物被食散布型の樹木であり,調査地への樹木種子の供給は鳥散布によるものが多いと考えられた。電線は鳥類の休息場所となり,電線下は周辺の公園などの植栽樹の種子が多く供給されていた。このような種子供給は都市域の埋立地にみられる特徴と考えられる。また,排水溝の掘削は植物の生育に不適な埋立地の土壌の改良と,栄養繁殖によって広がる多年生草本植物群落の分布拡大を抑制し,樹木が定着し,生育できるサイトを提供するものと考えられた。埋立地に発達する初期の森林群落としては,エノキ林やアカメガシワ林が考えられた。
著者
敦見 和徳 奥田 圭 小金澤 正昭
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.85-91, 2015-12-25 (Released:2016-04-15)
参考文献数
47

シカの高密度化に伴う林床環境の変化が土壌動物群集に与える影響を明らかにするため,栃木県奥日光のシカ密度の異なる3地域(各地域8地点)において林床環境と土壌動物群集との関係を検討した。シカ密度と林床環境条件との関係を検討した結果,シカ密度と土壌硬度に正の相関,A0層の厚さ,乾燥重量および孔隙度との間に負の相関がみられ,シカの高密度化により林床環境が改変されていることが示唆された。次に,TWINSPANと判別分析を用い,土壌動物の群集組成の変化要因を解析した。TWINSPANの結果,調査地点はグループA(シカ低密度地点)とB(シカ高密度地点)に,動物群はグループⅠ~Ⅳに分類された。土壌の孔隙に生息する中型の土壌動物や,捕食性の多足類などは,グループⅠ~Ⅲに属し,グループBよりもAに多く出現した。一方,土壌の撹乱に耐性があるハネカクシ科や,植食性の半翅目などはグループⅣに属し,グループAとBに同程度出現した。また,判別分析の結果,グループAとBの違いを最もよく判別する林床環境条件は,A0層の厚さと孔隙度であった。以上から,本調査地において土壌動物群集が変化した主要因は,シカの高密度化に伴うA0層の薄化および孔隙度の低下であると結論した。
著者
福田 健二 朽名 夏麿 寺田 徹 マンスーニャ モハマド レザ ウディン モハマド ニザム 神保 克明 渋谷 園実 藤枝 樹里 山本 博一 横張 真
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.83-98, 2013-12-25 (Released:2017-04-03)
被引用文献数
2

千葉県柏市の都市近郊林において,福島第一原子力発電所の事故による放射性セシウム汚染の実態を調べた。2011年8月〜12月の地上1 mの空間線量率は0.3〜0.4 μSv/h程度であった。2011年秋〜2012年秋に採集された植物体の放射性セシウム濃度は, 2011年受けた枝や常緑樹の旧葉では1.2〜8.8 kBq/kg,事故時に展葉していなかった常緑広葉樹の当年葉や落葉広葉樹の葉では0〜2.8 kBq/kgであった。2011年夏〜秋に採集された地表徘徊性甲虫ではほとんどが5 kBq/kg以下であったが,キノコでは高い値のものが多く,最大61 kBq/kgを示した。2012年春に伐採された間伐木の放射性セシウム濃度は,ヒノキでは外樹皮,次いで旧葉で高く,落葉樹では外樹皮で最も高かった。いずれも辺材,心材へのセシウムの浸透がみられた。これらは,里山活動における薪や堆肥の利用に支障をきたす汚染レベルであった。大青田の樹木地上部への放射性セシウム沈着量の推定値は,ヒノキの枝葉への大量の沈着を反映して,ヒノキ・イヌシデ林の地上部で5.7 kBq/m^2と,コナラ・クヌギ林の地上部の3.7 kBq/m^2の約1.5倍であった。コナラ・クヌギ林の地下部5 cmまでの沈着量合計は85 kBq/m^2であり,地上部と地下部を合わせた林分全体の放射性セシウム沈着量は約90 kBq/m^2と見積もられた。2013年1月のコナラ林の土壌では,放射性セシウムはリター層よりもA層に多く分布しており,落葉の除去による除染効果はほとんど期待できないと考えられた。
著者
田中 利彦 高橋 啓二 沖津 進
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.9-18, 1985-12-30

柏市内に島状に残存するスギ林の面積・構造と鳥類相の関係を繁殖期と越冬期に線センサス法(鳥類調査) , べルトトランセクト法(森林構造調査)で調査検討した。その結果,繁殖期には12種,越冬期には23種,合計26種が確認された。その中には都市域では比較的稀なルリビタキ,ヤマシギ,ヤマガラ,サンコウチョウも含まれている。鳥類種数は森林面積の増大に伴って増加するが繁殖期よりも越冬期に増加率が高い。また,森林構造や植物種が複雑なほど鳥類種数は増加する傾向が認められた。さらに各鳥種ごとに森林構造との結びつきを検討した結果,関連のあるものも認められ,鳥種ごとにその環境評価は異なっていた。
著者
紀藤 典夫
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.69-74, 2015-12-25 (Released:2016-04-15)
参考文献数
59
被引用文献数
1

最近の研究成果に基づき,東北地方から北海道における最終氷期以降のブナの地史的変遷についてレビューした。花粉分析の結果に基づけば,東北地方北部においても晩氷期以降ブナ属花粉が有意に出現する地点があり,また針葉樹の減少と同時にコナラ属と同調してブナ属花粉が増加する地点は,最終氷期末期にはブナが存在したと考察した。北海道におけるブナの北上は,最近記載された分布北限域の外側の孤立したブナ林の研究や生育適地の研究から,半島脊梁地域を中心に北上した可能性を指摘した。また,北海道に最終氷期の逃避地が存在したとすると日本海側南部(松前半島)であったに違いない。
著者
戸田 堅一郎
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.75-79, 2014-12-25 (Released:2017-04-03)
被引用文献数
7

地形判読を容易にすることを目的として,数値標高モデルを用いた新たな立体図法(CS立体図)を開発した。CS立体図は, GISソフトを用いて標高値から傾斜と曲率を計算し,異なる色調で彩色し重ねて透過処理することにより作製する。山地崩壊危険地の予測を行う場合は,小縮尺と大縮尺のCS立体図を用意し,巨視的視点と微視的視点から地形判読を行うと,より的確な判断が可能になる。CS立体図を用いて地形判読を行い,現地調査を行うことで,山地崩壊危険地の予測精度と調査効率の向上が期待できる。
著者
溝口 拓朗 伊藤 哲 山岸 極 平田 令子
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.23-29, 2018-06-25 (Released:2018-07-21)
参考文献数
26

間伐方法の違いが表土侵食に与える影響を明らかにする目的で,49年生ヒノキ人工林で2015年6月に列状間伐および定性間伐を実施し,その後約9か月間の土砂移動レートを比較した。その結果,列状間伐直後には,伐採木の搬出時に形成される伐採列内の搬出跡で局所的に土砂移動レートが増大することが明らかとなった。これは,木材を搬出する際に繰り返し同一箇所を木材が通過することによって土壌の浸透能が低下し,表面流が発生したことによると考えられた。しかし,間伐後約3か月で,搬出跡の土砂移動レートは大幅に低下した。これは,間伐後の夏季の降水によって表層の不安定土砂のほとんどが流出したためと考えられた。一方,定性間伐後の土砂移動レートは間伐前と比較して有意に増加しておらず,また列状間伐の伐採列および搬出跡と比較しても低かった。これらのことから本調査地においては,定性間伐は列状間伐よりも表土撹乱の小さい間伐手法であると示唆された。したがって,急傾斜地や火山灰土壌のように特に侵食を受けやすい地質では列状間伐はできるだけ回避し,表土へのインパクトの小さな間伐種を選択することが望ましいと考えられた。
著者
井上 章二
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.19-24, 1999-06-25
被引用文献数
1

林野火災延焼拡大の動態を解析するためには,風向・風速データが不可欠であり,火災現場から離れた気象観測所のデータを用いることが多い。しかし,火災時の熱で発生すると考えられる局地風の風向・風速を知ることは困難である。本研究は,火災跡地の立木に残る燃焼痕(いわゆる樹木の片面燃焼痕)から火災時の現地の風向・風速を推定する方法を検討したものであり,燃焼痕に関係する因子を明確にするため風洞による燃焼実験を行った。風向については,いずれの実験条件においても,樹木の風下側の燃焼痕が風上側に比べて高い位置まで残っており,風向は樹木の燃焼痕から推定できることが明らかとなった。さらに,風上側の燃焼痕の高さは,風速が大きくなるほど低くなり,風下側の燃焼痕は風速とは無関係に直径が大きくなるほど高くなった。また,風下側の燃焼高と風上側の燃焼高の差(Hd)が,風速を推定する上で重要な因子であることが確かめられた。しかし,この結果を現地へ適用するためには,風洞実験と実際の林野火災とのスケールを考えると,風下側燃焼高と風上側燃焼高の比(Hr)も,重要な因子であると考えられ,次元解析の結果,次の実験式が導かれた。風上着火:H/D=1.86×10^<-6>(U・D/v)^<1.64>風下着火:H/D=7.24×10^<-5>(U・D/v)^<1.20>ただし,H=Hd×Hr,Dは直径,Uは風速,vは空気の動粘性係数火入れを利用した現地実験において,実験式の適用性を検討したところ,高い精度で火災時の現地の風速が推定できることが確認された。
著者
奥田 賢 美濃羽 靖 高原 光 小椋 純一
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.19-26, 2007
参考文献数
20
被引用文献数
2

京都市周辺の都市近郊二次林において,近年,分布を拡大しているシイ林について,その拡大過程を解明し,今後のシイ林の拡大について考察した。2004年に撮影したデジタルオルソフォトおよび1987年,1975年,1961年撮影の空中写真を判読することによって,各年のシイの樹冠分布図を作成し,さらに1936年のシイ林の分布図も併せて比較を行うことでシイの分布拡大過程を解明した。また,現地踏査によって林冠下のシイの分布図作成を行うことによって,現在のシイの分布状況を把握した。その結果,以下のことが明らかになった。1)シイは1961年以降に分布を拡大した。2)シイの全樹冠面積は1961年には6.9haであったが2004年には32.1haに達した。3)2004年の時点で調査地の東側斜面において林冠に達しているシイはほとんどなかった。4)しかし,現地踏査によって,東側斜面の林冠下にシイの分布が確認された。このような東山における1960年代以降のシイ林拡大は,1960年代から始まったガス,電気の普及に伴う,柴刈りなどによる森林への人為的な影響の減少や1970年代以降のマツ材線虫病によるマツ枯れが遷移を促進させたことなどが考えられた。また,2004年の時点で林冠にシイが確認されなかった東側斜面の多くの地域で林冠下にシイが確認されたことから,今後,シイ林は東側斜面でさらに拡大する可能性が高いと考えられた。
著者
石田 泰成 逢沢 峰昭 大久保 達弘
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-8, 2013-06-25

栃木県奥日光山域において,明治期の1905年に撮影された山火事跡の古写真がデジタルアーカイブスとして公開されている。本研究は,この写真の撮影地点の探査と樹齢構造の調査から,山火事が発生した林分を特定し,そこで炭化片分析を行うことで,同分析によって山火事発生が実証可能か検討した。その上で,山火事発生に関する文献記録のない同山域の1915年の古い地形図上にみられる広域的なササ地が,山火事によって成立したものであるかを炭化片析によって明らかにすることを目的とした。踏査の結果,山火事発生林分を特定することができた。山火事発生林分は, 1915年の湯ノ湖周辺の地形図ではササ地となっている場所と,その近くの広葉樹林であった。また,文献および樹齢構造の調査,この場所では約120年前(1890年代)に山火事が発生したこと,この周囲のカンパ林およびミズナラ林の樹齢は120年以下であることがわかった。この林分での炭化片分析の結果,いずれの林分においても炭化片が検出され,同分析によって,山火事発生の実証が可能と考えられた。次に, 1915年にササ地であった別のミズナラ・シラカンバ林において同様の調査を行った結果,すべての地点から炭化片が検出され,樹齢は最大で101年であった。以上から,奥日光山域では明治期に広域的な山火事が発生しており, 1915年地形図のササ地およびその周囲の広葉樹林にみられる現在の森林植生は山火事後に成立したものと推察された。
著者
小金澤 正昭 田村 宜格 奥田 圭 福井 えみ子
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.99-104, 2013-12-25 (Released:2017-04-03)

2011年3月に起きた東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故は,広範な地域に放射性核種を飛散させ,原発から約160 km離れた栃木県奥日光および足尾地域においても低線量ではあるが,放射性セシウムの飛散が確認された。そこで,今後,森林生態系における放射性セシウムの動態と野生動物に及ぼす影響を明らかにしていく上での基礎資料を得るため,両地域において2012年の2月と3月に個体数調整で捕獲された計80個体のニホンジカの筋肉,臓器類および消化管内容物等の計9試料と,各地域における冬季のシカの餌植物8種の放射性セシウム濃度を調べた。9試料のセシウム濃度は,両地域ともに直腸内容物が最も高く,次いで第一胃内容物,筋肉,腎臓,肝臓,心臓,肺,胎児,羊水の順となっていた。このことから,放射性セシウムは,シカの体内全体に蓄積していることが明らかとなった。また,奥日光と足尾における放射性セシウムのシカへの蓄積傾向には,明瞭な差異が認められた。これは,両地域における放射性セシウムの沈着量と冬季の餌資源の違いが反映した結果と考えられた。さらに,直腸内容物の放射性セシウム濃度は,第一胃内容物および餌植物8種よりも高濃度であった。このことから,シカは採食,消化,吸収を通じて,放射性セシウムの濃縮を招いていることが示唆された。
著者
喜多川 権士 上村 佳奈 齊藤 哲 内田 孝紀 水永 博己
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.57-66, 2010-12-25

台風0918号は静岡大学上阿多古演習林内の67年生ヒノキ林に,根返りの風害を引き起こした。この林では風害発生以前に,風害リスク評価モデルの構築を目的として風速計の設置と立木引き倒し試験を行っていた。台風0918号による風害イベントにより,1)風害リスクの高い個体の樹木属性を観察とメカニズムモデルの両面から明らかにすること,2)風害を引き起こした実際の風況を記録すること,3)既存の風害リスク評価モデルの妥当性の検証,が可能になった。樹冠面積と胸高直径の比は個体耐風性を示す重要な指標として認められたが,形状比,幹サイズ因子は個体レベルの風害リスクには関係なかった。林冠のすぐ上で風速勾配の著しい増加がみられるなど,風速プロファイルの大きな変化が上空風速(林冠上10mの位置)が7ms^<-1>を超えた時に起きた。GALESを利用して計算した風害被害木の限界風速は,実測最大平均風速の約3倍だった。強風時の風速垂直プロファイルとモデルで仮定した風速プロファイルには大きな乖離があった。これらの結果は,強風時において風害リスク評価モデルに既存の対数則を適用することの問題点を指摘している。しかしながらモデルによって評価された個体の脆弱性は,観察によって明らかになった被害木の属性の傾向と一致した。これらの結果は,GALESの妥当性が樹木属性における相対的風害リスクの評価に留まることを示している。

2 0 0 0 土いじり

著者
佐藤 達夫
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.1-2, 1974-03-20
著者
越智 温子 小山 浩正 高橋 教夫
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.13-19, 2009-06-25 (Released:2017-04-03)
参考文献数
37
被引用文献数
1

風散布型種子であるサワグルミの種子サイズのばらつきが散布に果たす効果を調べた。サワグルミの種子重と翼荷重の平方根には正の関係があり,さらに翼荷重の平方根が小さいほど終端落下速度も低かったことから,小種子ほど落下速度が低く,潜在的な散布能力は小種子のほうが高いことが示された。そこで,野外での実際の散布時に小種子の高い散布効率は散布範囲の拡大に貢献しているか調べた。その際に行った散布のシミュレーションでは,実際の野外での風速のばらつきも考慮した。その結果,種子密度が1粒/m^2以上の範囲内に散布された種子の平均重量は散布距離の遠近に関わらずほぼ一定の値となった。さらに実測として野外で散布された種子を距離別に採取した結果も,シミュレーションと同じく散布された種子の平均重量に距離による違いが無く,種子サイズのばらつきの効果は見られなかった。シミュレーションと野外での観測データの傾向が一致したことから,散布距離へ及ぼす効果は風速のばらつきのほうが種子サイズのそれよりもはるかに大きく,種子サイズの変異が散布距離に及ぼす影響は野外では認められないことがわかった。種子サイズのばらつきの意義は散布後の定着段階に求める必要があると考えられる。
著者
藤本 潔 酒井 寿夫 森貞 和仁 古澤 仁美 中嶋 敏祐 布施 修 小林 繁男
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.83-90, 1998-12-25 (Released:2017-04-03)
参考文献数
20

1984年の長野県西部地震に伴い発生した御岳岩屑流は,森林域にも多大な被害をもたらした。この岩屑流発生から10年目の植生発達状況と立地環境との関係を明らかにするため,岩屑流堆積物が薄く堆積する標高約2000mの小三笠山北側の緩傾斜地(田の原)と,厚さ数10mの岩屑流堆積物で埋積された標高約950mの王滝川谷底部(氷ヶ瀬)にトランセクトを設け,地形断面測量,堆積物の粒径分析および植生調査を行った。波長数10〜100m程度,振幅10m程度の波状起伏がみられる田の原では,流水の影響を受けやすい谷部で粒径2mm以下の細土含有率や細土中のシルト・粘土含有率に顕著なばらつきがみられ,細土がほとんど存在しない箇所で出現種数・被度とも低い値を示すものの,細土含有率が5%程度以上ある地点では,微地形条件に関わらず,これらは同様の値を示した。氷ヶ瀬では岩屑流堆積面が現河床を含め3段に段丘化しており,岩屑流堆積後,河川による侵食作用を被ることなく安定した地形環境下にあった上位面が出現種数・樹高・被度のいずれも最も高い値を示した。これらの結果は,流水による侵食プロセスが初期植生発達過程に大きな影響を及ぼしていることを示す。岩屑流発生後,同じ期間を経ていると考えられる田の原と氷ヶ瀬上位面を比較すると,樹高およびそれぞれの種の被度百分率の合計値のいずれも標高の低い氷ヶ瀬上位面の方が高い値を示した。
著者
高橋 正通 柴崎 一樹 仲摩 栄一郎 石塚 森吉 太田 誠一
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.51-59, 2020-06-25 (Released:2020-07-14)
参考文献数
58
被引用文献数
1

砂漠化防止や気候変動緩和のため乾燥地での植林活動が続けられている。乾燥地・半乾燥地土壌の保水性を高め,苗木の活着や成長を促すため,高吸水性高分子樹脂(superabsorbent polymer,SAP)が土壌改良に利用される。本総説ではSAPを添加した土壌の物理性,化学性,生物性を中心に基礎的知見をとりまとめ,効果的な使い方を考察する。SAP添加土壌は以下のような特徴がある。1)SAPによる保水量の増加は土性の影響が顕著で,埴質な土壌より砂質の土壌の方が保水量は増える。2)SAP添加土壌の水ポテンシャルはpF 2.5以下の水分が主で,永久萎凋点pF 4.2以上で保水される量は少ない。3)吸水と排水過程で大きなヒステリシスが認められ,排水過程の方が保水量は多い。4)塩類濃度の高い水には吸水性能が発揮できない。5)ち密な土壌に粒径の大きな膨潤したSAPを入れると,粗孔隙が増加する。6)SAPの吸水・膨潤時には粗孔隙が塞がれ,一般に透水性は低下する。7)SAPのイオン交換容量(CEC)は大きく,砂質土壌のCEC増加につながる。8)SAP施用により土壌が湿潤になり微生物バイオマスが増加する。9)施用SAPによる環境汚染の影響は小さい。以上のような特性から乾燥地においてSAPを有効に使うには,土壌の塩分が比較的少なく,砂質または粗孔隙の大きな礫質の土壌への施用が推奨される。通常,せき悪土壌は貧栄養なため,肥料と併用するには,SAPの適切な施用位置などの検討が必要である。
著者
佐々 朋幸 後藤 和秋 長谷川 浩一 池田 重人
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.43-58, 1990-12-30 (Released:2017-10-20)
被引用文献数
10

They say, forests are being damaged in many parts of Europe, North America and Scandinavia by acid rain. In Japan also, the decline of adult Sugi tree (Cryptomeria japonica D. Don.) is going in urban areas, which is supposed by acid rain or acid materials from exhaust gases. The authors have an opinion that the influences of acid water will appear firstly on increase of soil acidity. Because, many kind of metals in soil will be exchanged to poisonous ions for tree fine roots or mycorrhizae, under such an acid soil condition. But, as it is extremely rare that rain water reaches forest floor directly without any touches on leaves, twigs, branches and stems, the water supplied to soil will certainly contain much amount of soluble nutrient elements derived from tree body, other than the amount in rain water. The other words, "the rain fall dropped on soil" means the throughfall or the stem flow changed in quality by such nutrient elements. The authors schement out a new method for collecting the stem flow and studied about the differences of acidity among rain fall, through fall and stem flow in relation to those nutrients' concentration. As the results of their study, they listed the following topics. 1) The acidity of stem flow always seems to converge to characteristic pH value in every species, independently of that of rain fall, as followings; Cryptomeria japonica: pH3.5〜pH4.1 Larix leptolepis: pH4.2〜pH4.8 Pinus densiflora: pH4.5〜pH5.2 Thujopsis dolabrata: pH5.0〜pH6.0 Fagus crenata: pH5.9〜pH6.5 2) The pH value of throughfall is always between that of rain fall and that of stem flow. 3) The pH value of stem flow is determined by multiple ionic action, not by single element. 4) The larger istheratio of(Ca+Mg+K+Na)/ organic-C in stem flow, the lower is the acidity. 5) The succeeding stem flow is different from the beginning one in the proportion between alkaline earth metals and alkali metals.
著者
宮川 清
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.25-30, 1990-06-30 (Released:2017-10-20)