著者
菅井 英明 柳澤 好昭 朝日 祥之 赤木 浩文 宮谷 敦美
出版者
独立行政法人国立国語研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

研究の目的本研究は,外国人の日本定住志向が強まり「社会的統合」(就労進学の機会の保障)政策導入の必要が高まっているに当たって,判断材料となる資料を整備することを目的としている。これまで法律面での整備は既に完了しているが,教育政策の枠で「社会的統合」の観点から見た外国人子弟の行動様式や価値観についての実態調査や提言は,なされてこなかったことを鑑み,本研究では,教育政策として必要となる資料を,質問紙調査とテストを基に作成する。研究の方法と結果本研究では,まず,質問紙調査を用いて,主に東海地域に定住している158名の13歳から22歳までの定住ブラジル人子弟に対して調査を行った。そこでは,主に社会的統合の進行を示す指標として,重要な進路等の決定を誰が行うかといった意識面と,現実のコミュニティでどのような言語生活を行っているかの実態面との両面について調査が行われた。アンケート結果からは,生活の実態としての統合が進んでいても,子弟には強い帰国の意思があることなど先行研究と裏づける結果が確認された。また,日本社会への理解も母文化への尊敬も同時に持ち合わせていることも示された。しかし,日本語で思考する子弟が4分の1以上いるなど,統合の程度が進んでいることを示す新しい実態も把握できた。次に,定住ブラジル人子弟読み行動が日本人のそれと異なることに着目し,定住ブラジル人に対する読解テストと読み行動に対するアンケートを行った。また,比較のため,大学入学年齢の日本人予備校生に対しても同様の調査を行った。テスト結果に基づき,高等教育に必要な読解の能力を特定した。波及効果今回の調査の結果は,科研修了後も各種研究会,学会等で発表し,また結果を定住ブラジル人社会に紹介する予定である。また,研究全体の結果は報告書として刊行した。調査結果全体は,今後,定住ブラジル人の円滑な統合に必要となる教育政策に対して提言を行う場合の参考資料となりうるものである。
著者
田中 牧郎 岡島 昭浩 岡部 嘉幸 小木曽 智信 近藤 明日子
出版者
独立行政法人国立国語研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

明治後期から大正期にかけて進んだ「言文一致」という出来事について,コーパスを活用して,精密かつ見通しよく記述することを通して,コーパス言語学の方法を日本語史研究に適用することを目指した。言文一致にかかわる言語現象のうち,コーパスを活用して記述することで,新たな日本語史研究の視野が拓けると想定されるものとして,語彙体系の変化,待遇表現構造の変化,テンス表現の変化の三つを取り上げて,『太陽コーパス』(言文一致期にもっともよく読まれた総合雑誌を対象とするコーパス)を用いた分析を行い,その成果を発表した。語彙体系については,動詞を例に,言文一致期に定着する語と衰退する語とを対比的に分析した。また,待遇表現構造については,二人称代名詞を例に,会話の文体や,話し手と聞き手の階層や性別の観点から分析した。さらに,テンス表現については,口語助動詞「テイル」「テアル」が定着する用法と,文語助動詞「タリ」が残存する用法とが相補関係にあることなどを解明した。いずれの研究においても,コーパスを用いることによって,共起語,出現文脈,出現領域などを定量的に考察することができ,共時的な構造分析の方向にも,通時的な動態分析の方向にも,新しい展開を図ることができた。コーパスを使わない従来型の研究では実現不可能だった,精密で見通しのよい記述を達成することができ,コーパスを日本語史研究に導入する意義を具体的に確かめることができた。また,コーパス分析ツールとして,XML文書へのタグ埋め込みプログラム『たんぽぽタガー』を開発し,使用説明書とともにweb上で公開した。このツールの公開は,コーパス言語学による日本語史研究の利便性を高める効果が期待できる。