著者
国枝 幸子
出版者
聖園学園短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:03894231)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.29-50, 2004-03

現在日本は長年の平和を享受しているが、かつては第二次世界大戦において、非常な困難を経験して来た。戦争によって破壊されるものは多くあるが、当時の日本に於ける保育もまた、その中で時代の荒波に翻弄され、大きな痛手を受けてきた。その悲惨さを今再び掘り起こし、ありのままにみつめる。その方法として、保育の専門誌「幼児の教育」の戦時中における倉橋惣三の記述を中心に考察してみる。彼は長年にわたり、東京女子師範学校付属幼稚園の主事であり、保育界の第一人者として活躍した。彼の記述には戦争に向けて、急降下してゆく歴史の中で、幼児教育を国の方針に合わせ、または批判し、常に変わらない真心を持って子どもたちのために考え、保育者を教育し、励まし続ける彼の姿と、時代と共に揺れ動く心の動きが映し出されている。国民学校の方針に賛同し、国民幼稚園を提唱し、戦勝に陶酔した彼も、泥沼化する戦時下で期待は裏切られていく。その中で全国の幼稚園に呼びかけ飛行機を献納する運動を起こし実現させる。やがて、本土空襲が開始され、幼稚園が閉鎖されていく中で荒波に必死に抵抗しつつ、保育界の人々を支え、信念と温かい保育理論をもって指導するが、彼の幼稚園も閉鎖され、失意のうちに退陣する。
著者
菊地 恵
出版者
聖園学園短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:03894231)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.61-70, 2008-03

昨年度より、教育理論と実践力が結びついた保育内容の指導法のあり方を目指し、保育における「環境」のとらえかたや、保育における「環境」とのかかわりが幼児期以降どのようなかかわりをもっていくかについて研究をしてきた。今年度の研究は、それらに加え、幼稚園教育要領の改訂を目前に控え、幼児期に見逃してはならない発達を見る「窓口」である領域について、保育者を目指す学生がどのようにとらえていくかを考え、主として領域「環境」を中心に、他の領域とのかかわりなども踏まえた、総合的な保育内容の実践を目指した研究である。その中において、実体験が教育理論を深めるにあたり、最大の教材となりうることを実感している。本研究は、その実体験を通して、「5領域」を理論的に理解するにあたり、総合的視野からの理解を学生自身の経験をもとに学習を深めていった授業の実践を中心に行ったものである。時代と共に学生自身の理解力や実践力にも変化がみられ、新しい時代の保育を担う学生が、これからどのような育ちを経て保育における理論と実践を融合させた力を養っていくか、また、そのためにはどのような授業展開をしていくことが必要かを探ってきた。
著者
安藤 節子
出版者
聖園学園短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:03894231)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.25-37, 2007-03

平成18年8月、10間の日程でフィンランドの首都ヘルシンキに滞在し、保育園と小学校を見学する機会を得た。さらにヘルシンキ在住の日本人留学生や社会人等の協力により得ることのできた、情報や資料をもとに、北欧型福祉国家「フィンランドにおける保育と子育て支援について」まとめることとした。特に、フィンランドの家族政策、健康相談所、保育施設の制度と内容、事前教育などを中心に日本の状況と比べながら考察した。特に妊娠から就学前まで、母子の心身の管理と指導は健康相談所「ネウボラ」で一括してサポートされており、子育て支援のあり方として日本が学ぶべきものがあると思われた。また、保育施設は小規模型であり、かつ小グループでの活動を基本として、ゆったりと落ち着きがあり自然の中での遊びを大切にしていた。保育と子育て支援について一言で表すとすれば「フィンランドの国としての子育てに対する思想が、制度や法律としてしっかりと実現されている」ということになる。
著者
国枝 幸子
出版者
聖園学園短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:03894231)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.39-50, 2005-03

私は本学、保育科短大生に授業の中で折々に詩を書くことを求めているが、それらの表現はつたないものであっても、学生達の素直なありのままの姿を映し出している。詩を通して彼らは自らの喜び、感動、困難、悲しみ、寂しさなどを率直、端的に表現する。家族、一人暮らし、友情、勉学、行事、また実習などがテーマとなっているが、それらを通して、彼らが感じていることのすばらしさを読む人々に伝えてくれる。大学に入り、同じ夢を持つ仲間として、同じ目的に向かって励まし合う新たな友との出会いがあり、実習を通しての子どもたちとの出会いもある。幼児たちの「先生!」と、慕う愛情、驚きに満ちた新鮮な心、ごまかしのない励ましの言葉などから、学生たちは多くの力を得、未来への期待を大きくすることが出来る。また、短期大学であるが故に2年間の学生生活は短く、1年目の何も分からない中での学園生活、行事などを体験し、2年目には自分たちが先に立って後輩をリードしなければならない。その中で多くの、苦しみ、困難にぶつかるが、また、彼らが体験する、達成感や感動も大きい。1年1年がかけがえなく、たちまちにして卒業の時期を迎える。その時、2年間の困難や、喜びを共にした友との別れが非常に大きく感じられ、楽しかった学園生活を顧み、苦しみを通してその時に至った達成感は共通の大きな喜びとなり、支えてくれた人たちへの感謝がおのずと、溢れ出るのである。