著者
清水 千弘
出版者
麗澤大学経済社会総合研究センター
雑誌
経済社会総合研究センター Working Paper = RIPESS Working Paper
巻号頁・発行日
vol.53, pp.1-21, 2013-01-01

不動産投資リターンとは,一体,どのように見積もれば良いのであろうか。不動産に対する投資家は,価格の上昇といったキャピタルゲインと,不動産から発生する収益の最大化を目標としている。そのような特性を持つときに,不動産投資リターンは,どのように決定され,どのような市場の特性を持つのであろうか。本稿では,東京の商業不動産市場と住居用不動産市場を対象として,不動産投資リターンのマイクロストラクチャをできる限り詳細に分解し,測定することを目的とする。わが国においては,不動産投資に適した不動産の属性として,「近・新・大」と揶揄されることがある。つまり,投資家は,交通利便性が高く(都心に近い),新しい建物で(築浅物件で),そして大規模な不動産(構想または面積が大きい) の投資リターンが高いと考えている。そこで,第一に,このような不動産の特性の相違によって,不動産投資リターンを構成する資産価格,収益,そして資産価格と収益との比率(割引率) がどのように変化していくのかを測定した。第二に,不動産投資市場で観察することができる情報の信頼性またはその歪みを測定した。不動産投資市場で得ることができる情報は,不動産鑑定士によって決定される不動産価格情報であることが多い。しかし,不動産鑑定価格は,実際の不動産市場の動向を適切に反映できないことも知られている。そこで,金融資本市場で得ることができるREIT の投資口価格(株価) によって構成されるREIT の運用会社の企業価値のデータを用いることで,金融資本市場の変化に対応した不動産投資リターンの推計方法を提案するとともに不動産鑑定評価に基づき形成されている不動産投資リターンの歪みを明らかにした。得られた結果を見ると,建物面積が増加すると,商業不動産では,収益・価格を共に押し上げ,割引率を押し下げる効果があった。特に,商業不動産の投資リターンは,住居用不動産と比較して,より規模が大きいものに投資をしていくことで,高い不動産投資リターンがとれることがわかった。建築後年数の効果については,商業不動産,住居用不動産ともに,資産価格,収益を押し下げるが,とりわけ住居用不動産でその効果が強い。また,資産市場で形成される割引率またはリスクプレミアムは,金融資本市場で形成されるそれらと大きな乖離があり,その乖離は市場が縮小していく過程で大きな差異が生まれることがわかった。このことは,資産市場だけの情報に基づき計測された不動産投資リターンを見ていては,誤った投資判断をしてしまう可能性を示唆する結果である。