著者
金 泰憲 李 允碩
出版者
龍谷大学国際文化学会
雑誌
国際文化研究 (ISSN:13431404)
巻号頁・発行日
no.11, pp.119-128, 2007

韓国人の家族に対する価値観は伝統的に儒教思想に基づいている。儒教思想は、人間は子孫を通して永生を得ることができ、子孫は親を通して命を得ることができると考える。従って、子孫は家系を継承し、父母の老後面倒を見てあげなければならず、祖先を祭る責任を果たさなければならない。このような思想からは拡大家族制が理想とされ、長男を中心に家系と家産が相続される直系家族形態が普遍化してきた。韓国の伝統家族観は、日本の植民地と韓国戦争を経験しながらも相変わらず韓国の中枢的価値観としての位置を占めてきた。しかし、最近社会変化とともに韓国の伝統的な家族観は大きく、早く変わっている。多くの韓国人は老後子どもに頼るより独立して生きていくことを望んでいる。夫婦が葛藤を解決できなければ離婚も可能であり、自分のためなら子どもを生まないか、一人で満足するという考え方が広がっている。一人の子どもが男ではなく娘であってもかまわないし、必ず結婚する必要もないと考えるようになってきている。このような価値観の変化は、1960年代から進められた経済発展とともに起こっているが、最近そのスピードが大変早くなりつつある。
著者
Cardonnel Sylvain
出版者
龍谷大学国際文化学会
雑誌
国際文化研究 (ISSN:13431404)
巻号頁・発行日
no.13, pp.15-39, 2009

(1)人種不平等の原理について 哲学者西田幾多郎や覆面作家沼正三を結びつけることによって、特に西田哲学の評価や再評価は日本国内外で形成された日本についての言説(日本人論)を脱構築するために有益なアプローチになるだろう。日本の近代、特に「近代の超克」というテーマに対して西田幾多郎や沼正三の著作から読み取れる考察は近代に対する希望や絶望を物語って、第二次世界戦争や敗戦に意味をつける。日本では「近代」 (modernity)という観念は西洋と違う意味をもち、19世紀の西洋帝国主義の経験によって「西洋と近代」の意味は重なっている。西田幾多郎は西洋の思想に見えた矛盾や行詰りを超克する哲学を試みたが、風刺の形で40年間に渡って書き続けてきた『家畜人ヤプー』という大作で沼正三は日本の近代化の苦痛な歴史の清算を計ろうとしている。本論文の第一部では、「日本の近代」の歴史背景を紹介する。
著者
佐々木 英昭
出版者
龍谷大学国際文化学会
雑誌
国際文化研究 (ISSN:13431404)
巻号頁・発行日
no.12, pp.3-13, 2008

文学的趣味の東西での「矛盾」をどう考えるかという英国留学期以来の夏目漱石の課題は、数年後の大著『文学論』において、「正典」の形成とそれへの抵抗の様相を「暗示」の戦いという図式において把握するという理論に結実している。この「暗示」概念を中核とする漱石の理論をロシア・フォルマリズムやI・A・リチャーズなどの先駆的文学理論と突き合わせ、それらに先行した『文学論』の世界史的意義を考察する。