著者
酒井 泰弘
出版者
Center for Risk Research (CRR), Shiga University
雑誌
CRR Discussion Paper
巻号頁・発行日
no.No. J-36, pp.1-22, 2013-04 (Released:2013-05-02)

The main purpose of this paper is to critically discuss and lucidly compare J. M. Keynes (1883-1946) and F. H. Knight (1886-1972), two towering figures in the history of economic thought. It is in 1921 that they both published apparently similar books on risk, probability and uncertainty. While Knight’contribution on the economics of risk and uncertainty has been well-known and very influential in the economics profession, Keynes’ accomplishments on probability and uncertainty have been more or lessunderestimated in the dark shadow of his most famous book (1936 ) The General Theory of Unemployment, Interest and Money.The present paper aims to focus on an earlier yet equally important book (1921) A Treatise on Probability, hopefully shedding a new light on his outstanding ideas and everlasting influences on his later works including The General Theory. According to Keynes, many probabilities, which are incapable of numerical measurement, can beplaced nevertheless between numerical upper and lower limits. Keynes has demonstrated whether and to what extent animal spirits contributes to the working and performance of the market economy. Remarkably, Keynes' concept of probability anduncertainty can be well-compared to Knight's distinction between a measurable risk and a non-measurable uncertainty. I believe that it is high time for us to unify Keynes and Knight into a new, comprehensive approach to understanding complex human behavior.
著者
酒井 泰弘
出版者
Center for Risk Research (CRR), Shiga University
雑誌
CRR Discussion Paper, Series J
巻号頁・発行日
no.No. J-47, pp.1-41, 2014-04 (Released:2014-04-16)

本稿の問題意識の核心はこうである。市場経済のワーキングとパフォーマンスに関して、それを倫理・公平抜きに議論することが妥当であるかどうか、ということである。この点を深く掘り下げるために、先ずマッケンジー、アロー、ドブリューなどの一般均衡論の思考方式を論じる。その背後に潜む独特の美学とイデオロギーについて、詳しく吟味することが重要である。次に、市場均衡の美学に対して、異論を激しく述べてきたフランク・ナイトの考え方を述べる。その中で、競争経済における論理と倫理の関係について、視覚的かつ多角的に私見を開陳したいと思う。私がロチェスター大学にてマッケンジー先生の講義を拝聴していた頃のことである。先生が角谷の不動点定理を用いて、市場均衡解の存在を見事に証明したときに発せられた次の言葉が決して忘れることができないのだ。「おお、実に美しい!」東西冷戦の最中にあって、ソ連式の社会主義システムと米国式の資本主義システムとが激しく覇権を争っていた。厚生経済学の基本定理によれば、市場均衡はパレート最適であり、その逆も真であると言う。まさに、「真・善・美」のカント的世界がこの世に出現したかのようであった。それから40 年。1990 年におけるソ連の崩壊とともに、「経済学の東西冷戦」は終わりを告げた。それとともに、一般均衡論の美学とイデオロギーも次第に霧消していった。だが、旧来の経済学に代わるべき「新しい経済学」の建設も未だ見えない。今こそ、フランク・ナイトの異論に立ち戻り、不確実性と不完全情報の基礎の上に、総合的・学際的社会科学の建設を目指す絶好の機会が訪れていると信じている。
著者
得田 雅章
出版者
Center for Risk Research (CRR), Shiga University
雑誌
CRR Discussion Paper, Series J
巻号頁・発行日
no.No. J-59, pp.1-17, 2016-09 (Released:2016-09-06)

2013 年より本格始動したアベノミクス(Abenomics)ももう3 年が経過した。アベノミクスは3 本の矢として「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」を標榜しているが、これは経済学的には狭義のポリシーミックス(金融・財政政策)の亜種に過ぎない。なかんずく日銀の金融政策に世間の耳目が集まっているが、これは非伝統的金融緩和の一種であるQQE(量的・質的金融緩和)が実施されたことが大きい。QQE は果たして実体経済に影響を与えたのだろうか。黒田東彦日銀総裁は、戦力の逐次投入はしないと豪語していたにもかかわらず、何発もの「バズーカ」を放つことになり、2016 年に入ってからはマイナス金利という新兵器まで併せて投入してきた。このようにいわば金融政策の実験場と化した日本経済への金融政策効果について、時系列分析を試みる。「試み」としたのは、金融市場における政策反応はさておき、波及までのタイムラグを加えた実体経済への影響となると、時系列分析によって判断を下すのは時期尚早といえなくもないからだ。一方で、アベノミクスの成果に疑問が生じている現況において、かつてないほど金融政策に関心が集まる中、暫定的にでも何らかの知見を示すことには意味があるだろう。過去10 年ほどの金融政策を取り巻く環境はまさに激変であり、対応する非伝統的金融政策も今ではすっかり普遍的になりつつある。本稿ではマイナス金利を含むQQE と実体経済への影響について、標準的な構造VAR モデルを主とする時系列分析手法を用いて評価する。結果、資産価格上昇、円安、長期金利の一層の低下を通じインフレ率に一定の上昇効果を確認した。一方で、実体経済に関して、失業率の低下が確認できたものの、鉱工業生産指数や実質GDP の明確な上昇は確認できなかった。 追加分析からは、政策パッケージとしての株式資産購入プログラムは効果がないあるいはむしろ逆効果となることが示唆された。