- 著者
-
西川 克之
- 出版者
- Research Faculty of Media and Communication, Hokkaido University = 北海道大学メディアコミュニケーション研究院
- 雑誌
- The Theory and Practice of Contents Tourism
- 巻号頁・発行日
- pp.1-7, 2015-03-16
本報告書第1章で論じられているように、テレビドラマや映画あるいはアニメや漫画などのコンテン
ツはいくつかの機能を果たしうる。大衆文化に根ざしたものの場合は特に、親しみやすさを駆動力とし
て国家や地域の境界をやすやすと越えて行き、ソフト・パワーとして国や社会のイメージを肯定的なも
のに転換する効果をもたらすことがあるだろう。そのようなコンテンツに直接的あるいは間接的に誘引
された観光客は、旅行の道程あるいは旅行先でさまざまな商品やサービスを消費し、もって目的地の社
会に一定の経済的利益をもたらす。経済産業省を中心として日本政府が昨今「クールジャパン」の売り
込みを成長戦略のひとつとして打ち出したのも、コンテンツがもつこうした社会的あるいは経済的波及
効果に照準を合わせてのことであるのは明らかである。
もちろんコンテンツ・ツーリズムについて論じようとする際に、そのような要素は重要な論点となり
うるし、実際、本報告書のいくつかの章においても触れられている。しかしながら、このはしがきにお
いては、そうした実利的な効果や影響については脇に置いて、コンテンツに誘発された観光客は目的地
でいったい何をまなざし経験しているのかという点について、文化学に近い立場から試論的に考えてみ
たい。