著者
武井 賢郎
出版者
THE ACADEMY OF CLINICAL DENTISTRY
雑誌
日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学 (ISSN:13468111)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.56-63, 2008

咬合治療が必要とされる症例では, 顎位を安定させ, 適切なアンテリアガイダンスを与えることが基本原則である, 通常, 咬合器の基準値に従いプロビジョナルレストレーションを製作し, 審美性, 機能性を追及しながら試行錯誤し, 固有のアンテリアガイダンスを模索していくが, 咬合器では再現できない前側方運動のような顎運動をレジンプロビジョナルに反映させることは大変困難である.そこで, プロビジョナルの臼歯部咬合面および上顎犬歯の舌面をサンドブラストしたメタルにすることで, 咬合接触部位や顎運動の軌跡がシャイニースポットとして記録される.咬頭干渉や早期接触等の不必要な接触部位を選択的に取り除き, 調整することで顎位の安定および最適なアンテリアガイダンスを獲得することができる.<BR>当稿では, 症例を提示し, 治療のステップをご報告させていただきたく.
著者
吉川 一志 谷本 啓彰 岡崎 定司 柿本 和俊 淺井 崇嗣 橋本 典也 木下 智 池尾 隆 今井 久夫 小正 裕
出版者
THE ACADEMY OF CLINICAL DENTISTRY
雑誌
日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学 (ISSN:13468111)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.426-431, 2005

スポーツを行う際, 選手同士が激突したり, 器具や用具による負傷が起こることがある.それらの不測の事故による歯, 顎骨など口腔内の外傷を防ぐためにマウスガードの装着が提唱されているが, 野球など選手間の連携のために発声するスポーツにおいては.マウスガードの装着により発声が困難になることに対する危険も危惧される.<BR>今回われわれは, (財) 日本高等学校野球連盟の協力を得て, 第21回AAA世界野球選手権大会に参加した日本選抜チームの選手に対してマウスガードを作製し, その装着感, 機能性, 不具合についてアンケート調査により検討したので報告する.第21回AAA世界野球選手権大会に臨む高校球児18名に対して, 印象採得後, ジャスタッチ (ハイブラークラレメディカル社製) を用いて, マウスガードを作製し, マウスガードを装着した状態で, 練習, 試合を行い, 使用後, 装着感, 発声, 機能性, 不具合について支障がないかアンケート調査を行った.以前マウスガードをつけたことがあるかとの質問に対して, 78%の選手が使用したことがないと回答した.マウスガード使用時の問題点については会話しにくいとの回答が21%を占め, つばがよく出るが8%, 違和感があるが4%となった.しかし野球をプレイ中に口腔内の外傷から歯を守るためにマウスガードは必要かという質問に対しては, 78%の選手が必要であると回答し, また今後も積極的にマウスガードを使用したいと思いますかとの質問に対しては, 67%の選手が使用したいと回答した.今回のアンケートの結果から, 選手もマウスガードに対して高い関心を持っており, 外傷を防ぐなどの目的で積極的にマウスガードを使用する必要があると感じていることが明らかになった.
著者
小出 馨 西巻 仁 齋藤 隆哉 森内 麻水 佐藤 利英 植木 誠 浅沼 直樹
出版者
THE ACADEMY OF CLINICAL DENTISTRY
雑誌
日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学 (ISSN:13468111)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.298-303, 2001

一般に, 中心位は咬合採得や咬合調整を行ううえでの基準となる下顎位として知られているが, 開口筋や閉口筋のみならず表情筋の緊張もその位置に影響を及ぼす.そこで, 表情筋が中心位に及ぼす影響を検討する目的で, 被験者として顎口腔系に異常を認めない健常有歯顎者3名を選択し, 中心位から口角部を後方へ牽引した状態に表情筋を緊張させ, その際生じる顆頭位の変化をナソヘキサグラフを用いて測定し, 検討した.その結果, 表情筋の緊張により下顎位は後上方へ偏位する傾向を示した.
著者
鈴木 光雄
出版者
THE ACADEMY OF CLINICAL DENTISTRY
雑誌
日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学 (ISSN:13468111)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.345-350, 2004

咬合を理解するうえで重要なことは, 生命の進化の過程や人類の二足歩行を考えることである.なぜなら, 不正咬合や顎関節症という概念は, おそらく人にのみ存在し, 他の動物には無縁であるからである.この論文の趣旨は, 人類の発生から二足歩行, 脳の発育, ストレスマネージメント, 下顎の偏位からくる全身の歪みなどを解説することにある.さらに後半では, 日本人のルーツを考えることによって不正咬合や骨格パターンを考え, 咬合治療のあり方を再確認することにある.これにより, 機械論的なナソロジーからはじめて, 人類学, そして人の発育と適応を考慮した生理学的なナソロジーに変貌していくと考える.
著者
山地 正樹 山地 良子
出版者
THE ACADEMY OF CLINICAL DENTISTRY
雑誌
日本顎咬合学会誌 : 咬み合わせの科学 = Journal of the Academy of Gnathology and Occlusion (ISSN:13468111)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.193-202, 2005-04-18
参考文献数
5
被引用文献数
1

我々臨床家が歯科治療において目指すのは, 単に疾病を治療するのみではなく, 治療後の状態を持続させることである.それらは, 結果として患者の健康増進に寄与し, ライフステージにおけるQ.0.L.を高めることにつながる.<BR>近年成人矯正が増加する中で, 歯周, 審美を考慮した治療が求められる.歯周病や欠損歯列では, 歯牙が移動し, 顎位が偏位しやすくなるため, 咬合崩壊へとつながる場合がある.咬合再構築のためにも歯牙移動が求められる.<BR>矯正治療を行うにあたり, 形態や審美が改善しただけでは十分とは言えない.そこに機能の裏付けがなされて初めて保定やメインテナンスがしやすくなる.歯周病や咬合崩壊の原因を顎運動や発語等の機能から探り, それらを改善することが咬合の安定につながると考えられる.<BR>よい形態がよい機能を作り, よい機能がよい形態を作る.それらは顔の表情のみならず患者の精神状態まで変え、全身の健康によい影響を与えQ.0.Lを向上させる.
著者
大野 健夫
出版者
THE ACADEMY OF CLINICAL DENTISTRY
雑誌
日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学 (ISSN:13468111)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.316-322, 2001

総義歯を製作するとき, 咬合床を用いて咬合採得を行う工程があり, 咬合採得によって得られた情報に基づいてロー義歯が製作されることを考えれば, 咬合床の重要性が認識できる.そこで, 望ましい咬合床の備えておくべき条件と製作方法を考えてみた.<BR>咬合床は構造的には基礎床と咬合堤からなり, 次の条件を満たしていなければならない.<BR>(1) 基礎床は作業模型の模型面に対して適合精度がよい.<BR>(2) 咬合堤は提示された垂直的数値, 水平的数値が正確に記入してあること.<BR>このときには顔面正中線が示されていることはないので, 当然として正中口蓋縫線を正中線 (基準軸) として咬合堤が製作される.<BR>そして, ヒトの顔が基本的に対称的であることを前提に考えれば, 有歯顎では, 上顎正中線を中心軸として左右対称の位置に同名部位の歯牙があり, 下顎歯列がその対向関係において上顎歯列と一致するなら, 下顎正中線を中心軸として左右対称の位置に同名部位の歯があり, 上下顎の同名部位の歯は対向関係において一致する.<BR>以上のことから, 上下顎模型の各正中線を中心軸として水平的数値は左右対称であり, 上下顎の咬合堤の水平的数値は同じ大きさであることが望ましく, また, 患者によって顎骨の大きさが一人一人違うことを考えれば, 患者によってその垂直的数値や水平的数値の変化に対応できる製作方法でなければならない.<BR>「また, 同一患者においては, その患者がどの分類に属していようとも上下顎顎堤の間には, 時系列的変化にかかわらず, そこには普遍的な共通性があると考えている」<BR>以上のことを考慮したシンメトリー (左右対称) な咬合床の製作方法を述べる.<BR>咬合床製作の工程は, (1) 作業模型上にガイドラインの記入, (2) 基礎床の製作, (3) 咬合堤の製作, の順序で行う.また, 咬合床を製作するには特別な器具は必要とせず10cmの三角定規があれば十分であるが, より寸法精度を上げるために自家製の器具を開発している.また, 規格模型の制作に関しては「目で見るコンプリートデンチャー」のp.97を参考にしている.