著者
長瀬 美樹
出版者
The Kyorin Medical Society
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.147-152, 2022-12-28 (Released:2022-12-28)
参考文献数
6

杏林大学医学部肉眼解剖学教室は,良医の育成に役立つ解剖学教育を目指している。解剖学実習では,本学で開発した,ホルマリン・フリーで組織や関節の柔軟性が保たれるピロリドン固定法を用いて,「臨床手技を体験しつつ当該部位の構造を学ぶ」という新しいスタイルの解剖学特別実習の実現に向けて検討を重ねてきた。そして2022年度,麻酔科学教室と連携して解剖学実習にご遺体を用いた気管挿管ハンズオンセミナーを導入し,気管挿管手技を全学生に体験してもらうと同時に,口腔側からみた喉頭の構造を理解してもらうことができた。また,医学部と保健学部のコラボレーションにより解剖体のオートプシーイメージングに着手し,解剖学実習に全身CT・脳MRI画像を取り入れる「解剖学実習と医用画像読影の統合的教育」を開始した。この取り組みにより,人体構造の三次元的理解が深まり,CTとMRIの正常画像を系統的に学ぶ機会が得られ,学習意欲の向上につながっているようである。今後,医用画像読影能力の高い学生・医師の育成に役立つことを期待している。いずれも先進的な取り組みであり,今後改良を重ね,よりよい解剖学教育を実践していきたい。
著者
西山 耕一郎
出版者
The Kyorin Medical Society
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.75-81, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
21

我国は高齢者嚥下障害例が急増している。誤嚥(嚥下)性肺炎の原因は,食物誤嚥,唾液誤嚥,胃食道逆流誤嚥がある。食物を誤嚥すると気道で炎症が起きて,びまん性嚥下性細気管支炎を発症し,さらに進行すると誤嚥性肺炎を発症する。嚥下障害の主因は咽頭期であり,口腔ケアとアイスマッサージだけでは嚥下機能の改善は期待出来ず,咽頭期の訓練や呼吸機能訓練が推奨されている。具体的には,喉頭挙上訓練として,嚥下おでこ体操,顎持ち上げ体操,発声訓練として音読やカラオケ,呼吸機能訓練として,口すぼめ呼吸などである。また高齢者の誤嚥性肺炎は,治らないから治療しないという意見もあるが,嚥下機能障害の病態や重症度を正しく評価し,嚥下機能に対応した食事形態や栄養管理を指導し,かつ嚥下自主訓練を毎日行うことで,誤嚥性肺炎による入院を減らし,医療費の削減を期待できる点に注目したい。
著者
嘉手納 志乃
出版者
The Kyorin Medical Society
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.85-92, 2007

自閉性障害,アスペルガー障害および特定不能の広汎性発達障害における記憶機能の異同を,標準化された記憶機能検査(Wechsler Memory Scale-Revised以下,WMS-R)を用いて検討した。その結果,「言語性記憶」「一般的記憶」「遅延再生」において有意な主効果が認められ,自閉性障害では3指標とも他の2群に比して有意に劣っていた。さらに,広汎性発達障害に特異的に認められる記憶想起現象であるtime slip現象について,記憶機能との関係を検討した。time slip現象の出現率は3群間で有意差は認められなかった。さらに記憶指標とtime slip現象の関係を検討したところ,「遅延再生」が高いほどtime slip現象が起こりやすく,また「言語性記憶」が高いほどtime slip現象は抑制されやすいという結果を得た。