- 著者
-
磯田 定宏
- 出版者
- The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
- 雑誌
- 電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09151915)
- 巻号頁・発行日
- vol.J83-D1, no.9, pp.946-959, 2000-09-25
オブジェクト指向により実世界を直感的かつ自然にモデル化できるとの理解に基づき,実世界モデル化,すなわち実世界を「あるがままにモデル化」しクラス図として表す方法が広く行われている.このあるがままにモデル化する実世界モデル化方式,すなわち「真性」実世界モデル化方式は,ソフトウェアの開発は特に想定せず単に実世界をクラス図として表現する場合,あるいはシミュレーションソフトウェアを開発する場合には問題なく適用できる.しかし,実世界の業務を自動化するソフトウェア(業務支援ソフトウェア)を開発する場合には,自動化する前の実世界(もとの実世界)をモデル化して「自動化しようとする業務が処理対象とする事物に関する情報」のモデルを作るという「擬似」実世界モデル化方式を適用しなければならない.以上述べたように実世界モデル化には真性及び擬似実世界モデル化という二つの形態があり,これらは対象とする問題の性質に応じて使い分けなければならない.ところがこれまでこの点は明確に意識されることはなかった.実際,多くのオブジェクト指向方法論及び技法に関する文献では,対象とする問題の種別を特に考慮することなく実世界をあるがままにモデル化するよう説いている.これらの文献では本来擬似実世界モデル化を用いるべきときに,真性モデル化と擬似モデル化の混合といえる「ナイーブな実世界モデル化」を用いている.このため,これらの文献を信じるナイーブな設計者たちは業務支援ソフトウェアを開発するクラス図を作成する場合に,システムのアクタとシステム内のクラスとを混同して不可思議なモデルを作る,余計なクラスをクラス図に取り込む,あるいは余計な操作をクラスに与えるなどの深刻なモデル化誤りを引き起こしている.