著者
川崎 真弘 山口 陽子
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.9, pp.1570-1578, 2011-09-01

我々の日常生活における行動の多くは好きまたは嫌いなどの「主観的な好み」に左右されることが多いが,その神経機構については不明な点が多い.そこで本研究では,主観的な好みがワーキングメモリ容量に与える影響とそれに関わる脳波リズムの特定を試みた.19名の被験者に対して,好きな色と好きではない色に塗られた視覚刺激を用いて遅延見本合せ課題を行い,そのパフォーマンスと脳波の変化を調べた.その結果,好きな色を使った図形に対するパフォーマンスは好きではない色に比べて高いことが分かった.また記憶期間中の脳波データの周波数解析は,前頭連合野と頭頂連合野のシータ波(3~6 Hz)とアルファ波(9~14 Hz)が増加する結果を示した.興味深いことに,前頭連合野シータ波は記憶量が増えるにつれて増加するのに対して,頭頂連合野アルファ波は減少した.特に好きな色の記憶期間中にはこの前頭連合野のシータ波に加えて,ベータ波(15~20 Hz)も増加し,好きな色を用いたワーキングメモリ容量増加分と相関することが分かった.以上の結果より,前頭連合野シータ波は負荷が大きい能動的なワーキングメモリ保持に関わること,このシータ波に加えベータ波が主観的な好みに影響を受けることで保持容量が増加することが示唆された.

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