- 著者
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岡田 理
- 出版者
- 医学書院
- 雑誌
- 臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
- 巻号頁・発行日
- vol.51, no.5, pp.119, 1997-04-15
「皮膚科の先生,焼身自殺の人が運ばれてきましたので,すぐ来てさい.」ICUの婦長さんからの電話である.「またか」と,医局に重苦しい空気が流れる.ICUへ行ってみると全身黒こげの若い女性が救急部のスタッフの治療を受けている.両親から話を聞くと,うつ病で治療中であったが,死にたい死にたいと何度も口にしていたとのこと.やけどの状態を説明すると,治療はいりませんから死なせてあげて下さいと懇願される.両親の要求をそのまま実行しようものなら大きく叩かれる昨今である.結局,懸命の治療にもかかわらずこの患者は20日後に亡くなってしまった.このようなことが繰り返される度に“焼身”自殺を止める策はなかったのかと思うのだが.昨年1996年の1年間で,5名の焼身自殺患者が当院に搬送されてきた.そもそも秋田県は人口当たりの自殺者の数が全国でも1〜2位を争うほど多い県である.北国の秋田では容易に灯油が入手できるので,焼身という手段が選択されているのであろう.救急蘇生の技術が発達した昨今では,どんな熱傷患者でもショック期を脱することが可能となっている.一命を取りとめた後は死ぬより辛い痛みが待ち受けている.また,形成外科がなく,救急部のスタッフの極めて少ない当院では,重症熱傷の治療に皮膚科が全面的に関わるので,医局員の少ない当科には大きな負担となっている.もちろんこうした患者の治療にも多額の医療費が使われているのが現実である.このような悲劇をなくすために,焼身自殺の悲惨さを広く知らしめることはできないものだろうか.皮膚科医,救急科医,精神科医などが協力して一大キャンペーンを行って頂ければありがたい.「焼身自殺はやめましょう,もしするなら他の方法でお願いします…」とは言えないが.