著者
山本 晃士
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1158-1159, 2020-11-01

術中の出血量増加時には凝固障害の程度を評価するため,一般的にプロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)検査が行われる。しかしPT,APTT値は,必ずしも患者の凝固能を反映しているとはいえない。そもそもPT,APTT検査は,凝固障害の原因がどこにあるか(内因系凝固経路か外因系凝固経路か両方か)を知るために有用な質的検査であり,定量的な意味合いで用いられるのは,ワルファリンやヘパリン投与時の効果判定および投与量の調節の際くらいである。端的にいえば,「PT,APTT値30%」がすなわち「凝固因子量30%」ということではなく,いったいどの程度の凝固能が維持されているのか,PT,APTT値から見当をつけることは難しい1,2)。治療に際しても,「新鮮凍結血漿(FFP)をどのくらい投与すればどの程度PT,APTT値がよくなるか」がわからないのである3)。つまりPT,APTT値には,「治療による達成目標値を決められない」という致命的な欠点がある。また,PT,APTT検査は凝固反応(=トロンビン生成反応)の初期相のわずか5%程度の良し悪しを反映する検査であり4),トータルとしての凝固能を表す指標とはなり得ない。そして最も重要なのは,高度な低フィブリノゲン血症(<100mg/dL)に陥ってもPT,APTT値はそれほど延長せず,大量出血をまねく危機的状況を察知できないことである(表1)。したがって,FFP投与のトリガー値をPT,APTT値とするのは不適切であると言える5,6)。 最近,ベッドサイドで全血を用いて迅速に検査できる「point-of-care(POC)テスト」が注目されている7)。中でもさまざまな観点から血液粘弾性を評価できるトロンボエラストメトリーrotation thromboelastometry(ROTEM)およびトロンボエラストグラフィthromboelastography(TEG)の有用性が期待されている。しかし,大量出血の主要因となる凝固障害の本態は「高度な低フィブリノゲン血症」であることがわかってきており8),リアルタイムに評価すべきなのは患者の血中フィブリノゲン値である。そして「高度な低フィブリノゲン血症」の改善のためには,乾燥人フィブリノゲンもしくはクリオプレシピテートなどの濃縮フィブリノゲン製剤の投与が必須である9,10)。こう考えると,術中大量出血時にPOCテストを使っていち早く知るべきはフィブリノゲン濃度であり,そのためには血液凝固分析装置Fib Careなど,フィブリノゲンに特化した検査機器で十分である。なぜなら,フィブリノゲン値から他の凝固因子の低下度もおよそ把握できるからである。仮にPT,APTT値がすぐにわかったとしても,その値に応じた治療(すでにFFPは十分投与しているはず)を選択できるわけではない。つまり,「治療につながらない検査をPOCテストで行う必要はない」ということであり,標的を絞った迅速検査と,その検査結果に応じた実効性のある治療が最も重要なのである(表2)。

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