著者
井東 廉介
出版者
石川県公立大学法人 石川県立大学
雑誌
石川県農業短期大学研究報告 (ISSN:03899977)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.56-66, 1991 (Released:2018-04-02)

日本語の統語構造の分析は格助詞の機能意味の解明を中心に行われてきた。規範文法的視点でも記述文法的方法でも変形生成文法的方法でも,この分析方法については変わっていない。日本語の統語理論で変化してきたのは,統語要素の設定に関わる部分である。明治期以来,日本語文法は英文法を始めとする英欧語文法の枠組みを手本とし,統語要素の同定は英文法の統語要素に日本語格助詞の機能意味を対応させることによって行われてきたと言われている。しかし,「-ハ-ガ-」構文のように英欧諸語の文構造の中には見られないものが日本語構造の中に含まれていることが頻繁に論議されるようになるにつれて,日本語文法には英欧諸語の文法の枠組みでは解決できない独自の言語現象が含まれていることが指摘されるようになった。その結果,日本語の格助詞「ハ」,「ガ」,「ニ」,「ヲ」を英語の主語,目的語などの統語機能と単純に対応させ,文構造のモデルを「主語+目的語+述語」のような枠の中だけで片付けようとする分析は日本語の分析に十分対処できない事が明らかになってきた。主語,目的語などの統語要素は,本来,動詞に対して定まった関係意味を持つものではない。主語になる名詞句は,動詞の意味との関連で,その行為者,経験者,対象,道具などを表す。目的語になる名詞句は,対象として作用,影響を受けるもの,結果として生じるもの,利益(害)を受けるものなど多様な意味関係のものを含んでいる。C.Fillmoreの格文法理論は,動詞と述語項とのこのような意味関係を「格」として統語構造派生の説明の中に取り込んだ。彼は,格概念の中心を従来の屈折語尾と統語構造内の位置関係から動詞と述語項との意味論的関係へと移したのである。英欧諸語の格概念を日本語に移植する時には,西欧諸語の語順や格屈折語尾などの格表現形式を類似の日本語表現と対比させた上で,それらの更に奥にある名詞句と述語との関係から割り出された文法的意味をそれに相当する日本語の語彙形態に当てはめることになるであろう。ここにFi11more的な格把握と共通するものがある。日本語の助詞の意味を主語,目的語などの英語の統語要素に対応させた「機能意味」だけではなく,動詞の意味に対する述語項の意味論的役割関係の中で捉えた「機能意味」の観点から再類型化すると,日本語の統語構造を英語の統語構造に依存する事なく分析する手がかりを与えてくれる。本論では,変形生成文法の言語分析成果を基盤とし,意味論的に日本語の統語構造生成を扱った井上和子の「変形文法と日本語」に於ける「格」の取扱方を検討する。

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