著者
伊藤 元己
出版者
Japanese Society for Plant Systematics
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1-3, pp.82-96, 1986-09-30 (Released:2017-09-25)

ハス属はアジア産のハスと北アメリカ産のキバナバスの2種から成っている。本属は、広義のスイレン科に含めて分類されてきたが、近年では以下にあげる形質が他のスイレン科の植物と異なるために単系のハス科として独立させる研究者が多くなっている。1)種子に胚珠および周乳を持たない。2)実生の第一葉が針状葉にならず明らかな葉身を持つ。3)三孔乳の花粉を持つ。本研究ではハス属とスイレン科の他の属との系統関係を明らかにし、これらの植物群のより自然な分類体系を確立することを目的としてハスの花の内部形態の観察を行なった。ハスの維管束は茎、葉柄、花柄などでは1つの同心円状に配列しておらず、しばしば不斉中心柱と記載される。しかしながら、花柄において詳しく観察を行ってみるとこれらの維管束はある一定の配列をしていることがわかる。(Fig. 1参照)。これらの維管束の中で、中心部に位置する6〜10この維管束は同心円上に配列しており花床においては典型的な真性中心柱を形成することになる。また、他の維管束は花床の下部において配列、形態が変化し皮層走条となる。花柄では個々の維管束は木部に1〜3個の直径の大きな仮道管を持つ。しかしながら、これらの仮道管は花床にはいるに従って、より直径の小さな仮導管に置きかわる。(Fig. 2)。花の維管束走向は2つの系からなる。1つは中心部に同心円上に配列する中心維管束系(central vascular system)であり、他方は皮層維管束系(cortical vascular system)である。これらの2つの維管束系は互いに独立している。各々のがく片、花弁には中心維管束系から一本、皮層維管束系から数本の維管束が供給される。雄ずい、子房へは中心維管束系のみから供給される(Fig. 6)。ハスとスイレン科の各属の花の内部形態を比較すると以下の点で異なっている。1)花柄の維管束はスイレン科の植物が持つ原生木部間隙を持たず、かわりに直径の大きな仮道管がある。2)スイレン科でみられる花床の維管束複合体(receptacular plexus)がない。3)皮膚走条がある。これらの点と始めにあげた差異を考慮すると、ハス属はスイレン科から独立させ、ハス科とするのが適当と考えられる。また、皮膚走条がある点、雄ずいへの維管束の入り方などの点ではモクレン科と共通したところがみられるので、ハス科の系統関係についてはこれからの植物群を含めて更に研究を進めていく必要がある。

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