著者
須藤 愛弓 三和 真人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0484, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】 高齢者の問題として転倒が注目されているが、これに関連する心理的問題として転倒に対する恐怖心がある。恐怖心やそれに関連したバランス低下が転倒を招くとされており、両者の関連性について理解する必要があると考えられる。本研究では、異なる条件下で不意の外乱刺激を与えることにより、恐怖心が姿勢の安定性にどのような影響を及ぼしているか検討することを目的とした。【方法】 対象は本研究に同意の得られた健常成人14名(平均:年齢21.4歳、身長168cm、体重58.9kg、男性8名、女性6名)である。方法は、重心動揺計を可動式の床面上に設置し、高さと視覚条件を変えた4条件下(平地開眼、平地閉眼、高地開眼、高地閉眼:以下LO, LC, HO, HC)で立位姿勢をとらせ、予告なしに前方への外乱刺激を与えた。重心動揺計にて総軌跡長、動揺平均中心変位、動揺速度、三次元動作解析装置にて下肢の角度変化を同時に測定した。恐怖心はVASおよびSTAI(状態・特性不安検査)にて評価した。統計学的解析は、級内相関係数による再現性、恐怖心と各項目の関連性はPearsonの相関係数及びANOVAの多重比較検定を行った。なお、有意水準は5%とした。【結果】 恐怖心はLO、LC、HO、HCの順に増加した。恐怖心と重心動揺の各項目は有意な正の相関を示し、外乱刺激の前後ともLOやLCに比べHO、HCで有意に増加した(p<0.05)。外乱前の平均中心変位は恐怖心が増すにつれ徐々に前方へ変位し、HCの時では約2.4cm前方へ変位していた。一方股関節及び足関節の角速度は弱い負の相関を示し(r=-0.24, r=-0.27, p<0.05)、LOに対しHO、HCで有意に減少した(p<0.05)。4条件とも外乱刺激から約0.5秒後に股関節が先行して反応した。足関節の反応時間との差は0.1秒程度で、条件間で統計学的な有意差は認められなかった。【考察】 恐怖を感じることにより、支持基底面内における姿勢の安定性が低下するのに加え、基底面から重心が外れないようにするための下肢の姿勢調節機能が働きにくくなると考えられる。この時健常者では下肢関節の協調した働きや危険を予測した身体の準備反応により自身の安定性を確保している可能性が考えられる。しかし高齢者の場合、身体機能が低下し、外乱に対する反応が鈍くなっていることが予想される。そのため下肢の協調性や準備反応が不十分となり、更に姿勢の安定性が低下するかもしれない。【まとめ】 健常成人を対象に、恐怖心と姿勢の安定性との関連性を検討した。恐怖を感じることで姿勢の不安定性が増し、身体機能が低下している高齢者の場合には転倒に至る可能性があることが示唆された。

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