著者
大野 忠夫
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.1-1, 2017 (Released:2017-01-01)

2016年7月1日,筆者は知り合いの医師から「オプジーボは,処方医師に専門医資格を求められるなど,未だ使用にハードルが高い薬であるため,自由診療であっても,あるいは自由診療だからこそ,今回の適用外使用は見合わせよう,ということになりました.」というメールを受け取った.直前の6月4日にシカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology:ASCO)では(ASCOの間はがんにかかるな,という冗談があるほど,全米のがん治療医が参加する主要学会),オプジーボのような抗体医薬によるがん免疫療法は,もはや臨床現場でも選択肢の1つとして当たり前の治療法になっており,既に話題のピークを過ぎていた.本抗体の劇的な効果がもともとは国内(京都大学)で発見されたにもかかわらず,がん治療の臨床現場レベルになると,我が国は遅れをとってしまっている.既に,「抗PD-1抗体(ペムブロリズマブ)がPD-L1高発現の進行性非小細胞肺がん患者に対するファーストライン治療として,無増悪生存期間および全生存期間において化学療法に対する優越性を示す」(2016年6月28日,https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/release/16/06/28/02114/)という現実が目の前に来ているのだが・・・.日本でもまもなく,「ファーストラインでがん免疫療法を行う」という意味を,医師は患者に説明しなければならなくなるであろう.しかし周知のように,がん免疫療法は手術・放射線・抗がん剤に継ぐ第4の治療法と期待されながら,実際には大学病院も含めて国内のごく普通の臨床現場では,未だに「まだ分からない治療法」なのである.すなわち,国内で承認済みの免疫チェックポイント阻害剤にとどまらず,身体に広く影響が及ぶがん免疫療法の真の意義については,我が国ではごく一部の専門医を除けば,臨床現場におけるほとんどのがん治療医がまだ理解していないのである.まして,医師の処方せんをチェックする薬剤師ではどうかと言えば,(少なくとも本稿執筆時点では)全員素人だと言われても仕方がない状況なのではないか.がん化学療法とがん免疫療法の関係で言えば,「まず抗がん剤治療ありき」から,「最初からがん免疫療法を実施する(これまでの抗がん剤治療に先んじて)」へ,優先順位が逆転するという,いまや常識のコペルニクス的大転換の時代に入っているのである.また,我が国では高齢化に伴ってがん患者は増える一方であり,既に年間37万人ものがん死者がいる.だからこそ,猛烈なスピードで進化しつつあるがん治療法(特にがん免疫療法)について,ファルマシアの読者にはぜひ勉強してもらいたいと願っている.少しでも勉強すれば,誰でもがん治療の臨床現場で最先端の知識を身につけられるのである.時代に置いてけぼりにされるより,はるかに面白いのではなかろうか.

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