著者
千葉 徳爾
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.21-30, 1986-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

本研究で取扱う地域は,中国中南部の揚子江流域と南嶺以南の南海岸に至る流域を含む.これらの地域の河川の水は黄土色か赤茶色で,山腹や山麓にはほとんど緑の森林がみられない.これらの現象ははげしい土壌侵蝕によるものである.本論文ではこれら地域での侵蝕の過程について考察する. この地方の加速的土壌侵蝕のはじまりは,ほぼ16世紀ころにさかのぼる.それは耕地が丘陵の斜面へと拡大したことに起因する.侵蝕の原因と影響については中国方志に記録されかつ説明されている. 耕地の加速的侵蝕の原因は,特に新しい作物として新大陸(アメリカ)から導入された玉蜀黍・落花生・甘藷・タバコなどの商品作物の作付である.これらの商品作物の耕作方法は,丘陵の斜面を伐採し,肥沃な土壌の侵蝕を防ぐことなく,これらの作物を植えつける。これら中耕作物の丘陵斜面への作付方式は,この地方の伝統的農法に存在しないものであった.はげしい雨は新しい農地の表土を容易に侵蝕してしまったのである. 玉蜀黍のある品種はコロンブスの時代以前から中国南西部雲南省には栽培されていた.ところが新らしい玉蜀黍栽培の方法は,伝統的な農法を無視し,加速的な土壌侵蝕の原因となった.このことは重大な文化的誤りの一例である。

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