著者
小口 高
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.81-100, 1994-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
45
被引用文献数
6 8

扇状地は源流域からの土砂供給を強く反映する地形である。それゆえ,扇状地発達の検討に際しては源流域の山地斜面の侵食史の把握が重要な意味を持つ。このことを考慮し,筆者はこれまで松本盆地周辺および北上低地西縁の流域において,扇状地と源流域の山地斜面の地形分類と編年を行い,扇状地発達と斜面発達との関係を論じてきた。ところで,扇状地の形成に関わる土砂供給の量は主に源流域の起伏に規定される。したがって,扇状地発達の一般論を確立するためには,多様な起伏を持つ流域を取り上げて比較する必要がある。しかし,上記の2地域のうち松本盆地周辺は日本で最大級の起伏を持つのに対し,北上低地西縁は扇状地を持つ割には起伏が小さく,日本の扇状地の多くが位置する中間的な起伏の地域については未検討であった。そこで,このような地域として山形盆地東縁を取り上げて扇状地と源流域の地形分類および編年を行い,その結果を松本・北上の2地域での結果と比較してみた。 空中写真判読,縦断面図の作成,および現地での堆積物層序の調査によると,山形盆地東縁の流域の河成面はQ1~Q5の5段に区分される。扇頂より上流側では最終氷期極相期頃まで河床が上昇し,その後は基本的に河床が低下している。一方,晩氷期~現在の扇状地発達は流域により異なり,扇頂より上流側と同様に河床が低下した場合と,埋積により河床が上昇した場合とがある。山地斜面では,最終氷期極相期頃に凍結融解作用により従順な平滑斜面が形成されたが,晩氷期以降は流水の作用の増大により,平滑斜面を切り込んで開析斜面が発達した。このような河成面および斜面発達の特徴は,松本・北上の2地域とほぼ共通である。これは,最終氷期極相期以降に, 3地域が同様の気候変化を受けたためと考えられる。 松本盆地周辺の流域では、扇状地発達の特徴と開析斜面の構成比率との間に対応が認められ,これに基づき3つのステージからなる晩氷期以降の流域の地形発達モデルが提唱されている。今回得られた山形盆地東縁の流域の資料と,既存の北上低地西縁の流域の資料を検討したところ,松本盆地周辺と同様の斜面発達と扇状地発達との対応が認められた。このことは,松本盆地周辺における地形発達モデルが,より小起伏の地域を含む広域に適用できることを示している。

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