著者
上山 浩次郎
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.21-38, 2021-05-31 (Released:2022-08-01)
参考文献数
28

アイヌの人々の現在を理解する上では,アイヌ文化に注目する必要がある。アイヌの人々の復権の動きにおいて,アイヌ文化が大きな位置を占めてきたからである。そこで,アイヌ文化実践の変遷を,特に戦後に注目して検討し,現在の特徴を考察した。「アイヌ文化保存対策期」(1945~1973 年)において,アイヌ文化は,「保存」の対象とされ,高齢者によって実践され,かつ次世代への伝承が避けられていた。だが,「ウタリ福祉対策期」(1974~1996 年)に入り,制度・政策レベルでのアイヌ文化の伝承活動の奨励が進み,生活レベルではアイヌ文化の再興運動が組織的な活動を基盤としながら展開した。さらに,「アイヌ文化振興法期」(1997~2018 年)では,「アイヌ文化振興法」という法制度に支えられアイヌ文化の実践がなされていた。 019 年に成立した「アイヌ施策推進法」をみると,「民族共生象徴空間(ウポポイ)」については,アイヌ民族博物館などのハード面での整備だけではなく,その具体的な担い手の育成という点で大きな意味を持つ可能性がある。他方,「アイヌ施策推進地域計画」については,観光産業事業に偏り文化継承に関する事業が相対的に弱くなる可能性があり得る。その意味で,今後の具体的な運用のあり方が重要な意味を持つ。以上を踏まえると,「アイヌ施策推進法」は,アイヌの人々のアイヌ文化実践のあり方を,「アイヌ文化振興法期」から異なる状況へと変化させうる可能性を持ちえる。

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