著者
上山 浩次郎
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.138, pp.195-209, 2021-06-25

本稿では,教育機会の不平等における地域と社会階層の関連構造を検討した。地域による教育機会の不平等に関する研究は,これまでコンスタントに行われてきた。ただし,地域的要因が社会階層などの他要因に還元できると解釈されうることから,地域を属性的な要因として位置づけることには批判も存在してきた。そこで,本稿では,進路選択に対して,地域変数と社会階層的変数が,どのように関連しているのかを計量的に把握することを試みた。分析の結果,たしかに,進学行動に対して,地域変数は社会階層的変数を通して格差を生成していた。だが,社会階層的変数に還元できない形でも地域変数は格差を生成していた。さらに,両者を比べると,社会階層的変数を媒介しない形の方が,格差を生成する度合いが大きい。ここからは,地域的要因は,社会階層的要因とは相対的に独自に教育機会の不平等という現実を生成していることがあらためて示唆される。
著者
上山 浩次郎
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.21-36, 2012-06-05 (Released:2013-02-28)
参考文献数
21
被引用文献数
1

本稿では,これまで高等教育進学率の地域間格差がどのように変化してきたのかを明らかにする。その地域間格差は,過去と比べて拡大してきたのか縮小してきたのか,それとも安定して推移してきたのか。こうした論点を検証することを通して,現在の地域間格差の状況を評価する。 先行研究を確認すると,1990年以降,高等教育進学率の地域間格差は拡大してきたという見方と,安定して推移してきたという見方が併存している。こうした見解の違いは,標準偏差と変動係数という,用いる格差指標の違いが関係している。しかし,両者ともに,進学率の格差指標としては適切さに欠ける。そこで本稿では,より妥当性が高い都道府県間相関比を格差指標として分析した。 分析の結果,⑴大学進学率では,男女計・男女別と都道府県別・地域ブロック別のすべての組み合わせで,地域間格差が1990年まで縮小したのち1990年以降は拡大していること,⑵大学に短大を加えた高等教育進学率でも,すべての組み合わせで,地域間格差が1990年を境に縮小から拡大に転じていることが明らかになった。さらに,⑶2010年現在の状況は,「大学立地政策」が実効的な影響力をもつ以前の1975年の格差と比較して,大学進学率で同程度,高等教育進学率でもこれに匹敵する程度となっている。 以上から,現在は,高等教育進学率の地域間格差の是正を意図するような政策が再び必要となる状況へと変化しつつあることが示唆される。
著者
廣森 直子 宋 美蘭 上山 浩次郎 上原 慎一
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.140, pp.337-351, 2022-06-25

本稿の目的は青森県の高校卒業生の進路を地域間格差,ジェンダー差に着目して明らかにすることである。その結果,青森県の高校生の進路状況を全国と比較すると,大学・短大への進学率の低さと就職率の高さが特徴的であることや,専門学校進学率は一貫して全国より低いことが明らかにされた。 青森県の地域区分は6つに分かれており,主要3市(青森,弘前,八戸)を含む3地域(東青・中南・三八)と,郡部の3地域(西北・上北・下北)である。また,青森県内の大学は11校,短大は5校,専門学校は26校あるが,青森県内の高等教育機会は主要3市を含む3地域(東青・中南・三八)に偏在しており,地域間格差が見られる。 高校卒業生の進路状況では,全体として男性ほど就職率が高く,女性ほど進学率が高い。青森県内のいずれの地域も同様の傾向が見られた。地域区分別にみると,東青・中南・三八は進学率が高く就職率が低く,西北・上北・下北は進学率が低く就職率が高い。進学率が高い地域と低い地域(就職率が低い地域と高い地域)があり,「二極分化」の傾向が見られた。こうした傾向は高等教育機会の供給の地域分布に影響を受けつつ,高校偏差値の地域的な格差によって生じている。第4章にあるように,この傾向は北海道とは異なる現象として現れている。
著者
上山 浩次郎
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.207-227, 2011-06-10 (Released:2014-06-03)
参考文献数
23
被引用文献数
2 1

本稿では大学進学率における都道府県間格差の要因構造を時点間の変容を考慮しながら明らかにする。そのことを通して,近年の都道府県間格差がどのようなメカニズムによって生じているのか,その特質を浮かび上がらせる。 そこで1976から2006年の4時点マクロデータに基づき,共分散構造分析の下位モデルである多母集団パス解析を行った。 結果,(1)1976年には「所得」と「職業」によって格差が生じていたものの,(2)1986年には「地方分散化政策」(供給側要因の格差是正)の効果もあり「所得」と「職業」の影響力が弱まった。だが(3)1996年に入ると,男子で「所得」の影響力が,女子で「大学収容率」の影響力が増し始め,さらに(4)2006年には,男女ともに「所得」と「大学収容率」が影響力を持ち始めただけでなく,男子のみではあるが「学歴」も大きな影響力を持っている。加えて,「大学収容率」を介した「所得」の間接効果ももっとも大きい。 以上から,こんにちの大学進学率の都道府県間格差のメカニズムには,社会経済的条件が持つ影響力の大きさ,供給側要因の「実質化」と「機能変容」,両者の「相乗効果」の増大という特徴があることが浮き彫りとなった。
著者
上山 浩次郎
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.95-116, 2012-11-30 (Released:2014-02-11)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

本稿では,「大学立地政策」の「終焉」が,大学進学機会の地域間格差にどのような影響を及ぼしたのか明らかにする。 先行研究においては,その「終焉」は大学進学機会の大都市部への集中と地域間格差の拡大をもたらしていないと示唆されている。だが,その「終焉」の独自の影響力を捉えきれていない等の限界がある。 本稿では,「インパクト評価」に依拠し,実測値と予測値の差からその「終焉」の影響を評価する。具体的には,「高等教育計画」での特定地域における新増設の制限に注目し,この制限の撤廃が,(1)「規制地域」(を含む地域ブロック)での大学進学機会の動向に影響を及ぼしたのか,さらに(2)この動向が全国レベルの地域間格差にどのような影響を及ぼしたのかを検討した。 分析の結果,①大学学部定員数では,「規制地域」で予測以上の定員増がみられ,さらに全国レベルの地域間格差も予測以上に拡大した結果,格差の趨勢が縮小から拡大へと反転した。②大学収容力でも,「規制地域」を含む地域ブロックで予測以上に値が上昇し,地域間格差も予測以上に拡大した。結果的に,現在の格差の大きさは,「大学立地政策」開始直後以上になっている。③大学進学率も,「規制地域」を含む地域ブロックでの値の上昇と全国レベルでの地域間格差の拡大とが予測以上に進行した。 これらから,「大学立地政策」の「終焉」は,大学進学機会の地域間格差の拡大をもたらしたと判断できる。
著者
上山 浩次郎
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.207-227, 2011-06-10
被引用文献数
1

本稿では大学進学率における都道府県間格差の要因構造を時点間の変容を考慮しながら明らかにする。そのことを通して,近年の都道府県間格差がどのようなメカニズムによって生じているのか,その特質を浮かび上がらせる。そこで1976から2006年の4時点マクロデータに基づき,共分散構造分析の下位モデルである多母集団パス解析を行った。結果,(1)1976年には「所得」と「職業」によって格差が生じていたものの,(2)1986年には「地方分散化政策」(供給側要因の格差是正)の効果もあり「所得」と「職業」の影響力が弱まった。だが(3)1996年に入ると,男子で「所得」の影響力が,女子で「大学収容率」の影響力が増し始め,さらに(4)2006年には,男女ともに「所得」と「大学収容率」が影響力を持ち始めただけでなく,男子のみではあるが「学歴」も大きな影響力を持っている。加えて,「大学収容率」を介した「所得」の間接効果ももっとも大きい。以上から,こんにちの大学進学率の都道府県間格差のメカニズムには,社会経済的条件が持つ影響力の大きさ,供給側要因の「実質化」と「機能変容」,両者の「相乗効果」の増大という特徴があることが浮き彫りとなった。
著者
上山 浩次郎
出版者
北海道大学アイヌ・先住民研究センター
雑誌
北海道アイヌ民族生活実態調査報告 : Ainu Report
巻号頁・発行日
vol.2, pp.183-193, 2012-03-31

現代アイヌの生活の歩みと意識の変容 : 2009年北海道アイヌ民族生活実態調査報告書. 小山透編著
著者
上山 浩次郎
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.21-38, 2021-05-31 (Released:2022-08-01)
参考文献数
28

アイヌの人々の現在を理解する上では,アイヌ文化に注目する必要がある。アイヌの人々の復権の動きにおいて,アイヌ文化が大きな位置を占めてきたからである。そこで,アイヌ文化実践の変遷を,特に戦後に注目して検討し,現在の特徴を考察した。「アイヌ文化保存対策期」(1945~1973 年)において,アイヌ文化は,「保存」の対象とされ,高齢者によって実践され,かつ次世代への伝承が避けられていた。だが,「ウタリ福祉対策期」(1974~1996 年)に入り,制度・政策レベルでのアイヌ文化の伝承活動の奨励が進み,生活レベルではアイヌ文化の再興運動が組織的な活動を基盤としながら展開した。さらに,「アイヌ文化振興法期」(1997~2018 年)では,「アイヌ文化振興法」という法制度に支えられアイヌ文化の実践がなされていた。 019 年に成立した「アイヌ施策推進法」をみると,「民族共生象徴空間(ウポポイ)」については,アイヌ民族博物館などのハード面での整備だけではなく,その具体的な担い手の育成という点で大きな意味を持つ可能性がある。他方,「アイヌ施策推進地域計画」については,観光産業事業に偏り文化継承に関する事業が相対的に弱くなる可能性があり得る。その意味で,今後の具体的な運用のあり方が重要な意味を持つ。以上を踏まえると,「アイヌ施策推進法」は,アイヌの人々のアイヌ文化実践のあり方を,「アイヌ文化振興法期」から異なる状況へと変化させうる可能性を持ちえる。
著者
松本 伊智朗 湯澤 直美 関 あゆみ 蓑輪 明子 永野 咲 加藤 弘通 長瀬 正子 丸山 里美 大谷 和大 岩田 美香 大澤 亜里 鳥山 まどか 佐々木 宏 杉田 真衣 山野 良一 田中 智子 上山 浩次郎 藤原 千沙 吉中 季子 福間 麻紀 大澤 真平 藤原 里佐 川田 学 谷口 由希子 中澤 香織 伊部 恭子 山内 太郎 新藤 こずえ 小西 祐馬 加藤 佳代
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、子どもの貧困の現代的特質を明らかにすると同時に、政策的介入と支援のあり方を検討することである。そのために、大規模な子ども・家族を対象とした生活調査(3万人対象)を北海道で行った。あわせて、女性の貧困に関する理論的検討、社会的養護経験者に対する調査を行った。それらを通して、経済的問題、時間の確保、追加的ケアへの対応、ジェンダー平等の重要性、子どもの活動と経験、社会的ケアと社会保障制度の問題について検討を行った。