著者
高田 陽 倉本 宣
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1915, (Released:2021-04-20)
参考文献数
30

市民科学プロジェクトの関係者の中で、プロジェクトの主催者の利益については明瞭であるが、ボランティアとして参加する市民の利益は多様で分かりにくい。このため、市民の参加動機(期待する利益)を調査することで市民にとっての利益を明らかにし、十分な利益を市民に与えることができるようなプロジェクトの設計を行う必要がある。本研究では東京都鳥類繁殖分布調査島嶼部において島外から伊豆諸島での鳥類ラインセンサス調査に参加した市民を対象に、遠隔地で専門家が市民に帯同する市民科学プロジェクトに対する参加動機の特徴を明らかにすることを目的とした。対象とした市民科学プロジェクトでは、伊豆諸島外に在住する一般市民からの参加者と東京都鳥類繁殖分布調査島嶼部の主催者が調査地に同行し、最長で 4日間共同生活を送りながら調査が実施された。本研究では市民参加者に対する参加動機のアンケート調査、とそれを補完する聞き取り調査を行った。最も多い参加動機はツーリズムに関する「島の自然の魅力」と社会貢献に関する「調査目的への共感」であり、市民が自主的に自然科学を行う「学び」と「調査の楽しさ」や「科学への貢献」が続いた。「友人づくり」や「家族・友人による紹介」などの一般的な人間関係に関する項目は動機として重要でなかった。既往研究と比較し、「調査目的への共感」が高い傾向は一致したが、本調査結果の特徴として「島の自然への関心」と「学び」に関する関心が高い傾向があった。聞き取り調査から「島の自然への関心」が選ばれた理由として、観光的な動機の他に、生物多様性保全上の意義をあげる意見も見られた。「学び」については、聞き取り調査から市民参加者は調査方法の学習に対する関心が高いことが推測された。それぞれ遠隔地という要素と専門家の帯同という要因が影響していると推察された。この結果をもとに生物多様性保全に関わる市民科学プロジェクトの効果的な企画が可能になると考えられる。

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