著者
種田 博之
出版者
学校法人 関西学院大学先端社会研究所
雑誌
関西学院大学先端社会研究所紀要 (ISSN:18837042)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-16, 2021 (Released:2021-05-15)

2013 年、HPV ワクチン接種後の有害事象ないし健康被害(HPVワクチン接種問題)が表面化した。そして、それは現在も「薬害」として係争状態にある。本論文はこのHPVワクチン接種問題の係争化をスティグマの視点を糸口にして明らかにする。スティグマは「関係概念」である。それは、ある他者がある属性をスティグマ=汚点と評しても、別の他者は真逆の評価をしうる、ということである。また、自己との関係においても、ある属性に対して意味づけをおこなう。HPVワクチン接種問題の場合、被接種者の身に起こった事象は、当初、「詐病」であった。「HPVワクチン関連神経免疫異常症 候群」説などによって、副反応による健康被害=「被害者」に変わった。まさに、その時々の「関係性」から意味づけられてきた。HPVワクチン接種問題に巻き込まれた被接種者は、詐病扱いされ、ひどく傷ついた。その後、HPVワクチン接種問題が副反応による健康被害として捉えられるようになり、巻き込まれた被接種者は被害者になった。医薬品副作用被害救済制度を使って補償の請求をおこなった。しかし、その要件を満たしていなかったために、不支給の判定をうけた。そこで、救済を求めて、副反応による健康被害であることを認めさせるために、訴えざるを得なくなった。この副反応を事由とした健康被害の認定は、補償を得るための根拠だけでなく、詐病ではないことの証も含意している。係争に水路づけたのは救済制度の制約と詐病扱いだったのである。

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