- 著者
-
境原 三津夫
- 出版者
- 日本生命倫理学会
- 雑誌
- 生命倫理 (ISSN:13434063)
- 巻号頁・発行日
- vol.12, no.1, pp.183-188, 2002-09-17 (Released:2017-04-27)
- 参考文献数
- 15
wrongful birth訴訟とは、子どもが先天性障害をもって生まれてきた場合に、親が、医師の過失がなかったならば、この出生は回避できたはずであると主張して医師に対し損害賠償を請求するかたちの訴訟をいう。日本においては、先天性風疹症候群とダウン症候群の事例がある。いずれも医師が子の障害の可能性を親に告げていたなら、妊娠中絶をすることができたと主張して、医師に損害賠償を請求している。これに対して、裁判所は、障害児が出生する可能性があることを告げられていたなら、親は胎児を中絶することができたのに、その選択をする機会を奪われた、あるいは親は児の出生までの間に、障害児の出生に対する精神的準備ができたはずであるが、その機会を奪われ大きな精神的苦痛を与えられたとして、医師の説明義務違反の問題として処理している。つまり、裁判所は、わが国の母体保護法には胎児の障害を理由とする妊娠中絶の規定がないとの立場に立っている。臨床の現場では、染色体異常児や先天性風疹症候群児出生の可能性がある場合に妊娠中絶が行われることがあり、いわゆる「医療と法の乖離」という現象がおこっている。この問題の解決には生命の尊厳といった倫理的側面も考慮しなければならない。医療と法と倫理それぞれの側面から、障害胎児の妊娠中絶について考察した。