著者
水岡 不二雄
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.45-62, 1994-03-31 (Released:2017-05-19)

本論は大きく2部にわかれる. 前半は, これまで体制としての地理学の中にあって伝統的地理学の非社会科学性を批判することに存在意義を見いだしてきた「批判的地理学」と呼ばれる立場がはらむパラドクシカルな論理の検討であり, 後半は, 筆者が前著『経済地理学』で提示した, 空間の経済・社会への包摂とそれをつうじた空間編成ならびに建造環境生産にかかわる経済・社会空間論の基本的枠組みの要約的な説明にあてられている. 非空間的な伝統的社会科学の導入による「社会科学としての地理学」を唱導して伝統的地理学を批判してきた地理学者は, 一方で地理学そのものを否定してこれを社会科学一般に解消することを導きながら, 他方では, その経済学・社会学修得の不十分さゆえ, 伝統的地理学への寄生的共存から抜け出しがたい, というパラドクスにおちいった. このため, 社会科学に学際的研究がすすんで学問の「仕切り」が開放的になり, また, 社会諸科学が空間論という新たなフロンティアに理論展開の方向を求めるようになったとき, 批判的地理学はこれに十分対応できる力量を持ち合わせていなかった. かくて批判的地理学の流れをくむ人々は, 自己の学問的アイデンティティーを求め, 一転して先祖返りし, 例外主義や機能・等質地域論, 立地論など伝統的地理学・経済地理学とおなじパラダイムを奉ずるようになった. このような逆説的な状況から抜け出すためには, 地理学を経済・社会空間編成の科学と位置付け, 空間が素材的にもつ物質性が社会に包摂されることによって, どのように社会・経済の諸過程ならびに諸関係の態様が変容するかを説明する, 経済・社会空間論の体系を構築しなくてはならない. この理論によりはじめて, 地理学は独自のdisciplineをもって他の社会科学と対等の学際的共同関係を築くことができる. 素材的空間を包摂した経済社会諸過程にかかわる論理体系は, 大要次のようなものである. 原初的空間は, 大きく絶対空間と相対空間の属性に分けられる. 絶対空間は, 空間の無限に広がる連続性であり, 空間のなかにある物質を相互に関係づけて均等化・同質化する性向をもつ. 他方相対空間は, 位置ごとの個別性と位置相互間の距離が生み出す隔離・分断の性向をもつ. 絶対空間を形式的に包摂した社会では, 主体・集団ないし行為の独立性が奪われないよう, 空間の連続性を仕切り, 「領域」が生産されなくてはならない. するとその中だけで同質化過程が作用し, 互いに異質なロカリティーができあがる. だが, 領域生産の他の一面の目的は社会関係をとり結ぶことだから, これらの異質的ロカリティーをもつ領域が集まってつくりだされた「集合的絶対空間」は, その上により広い領域を構成する社会関係の層を作りだす. こうして生産された複数の集合的絶対空間の層相互において, 空間的「連続性」と「分断」との間の関係という矛盾が発生する. 他方, 相対空間を形式的に包摂した社会は, その隔離の属性のために社会関係が破断しないよう, 集積をはかり, また交通網のネットワーク構築により「空間の絶滅」を行って, 領域内部の同質化を実際に達成しなくてはならない. しかし, 1次元の線のネットワークで2次元の面を絶滅するという交通路, ならびに点である集積が合わさってできた建造環境の編成は, その点や線と平面上の各位置との間の距離関係というあらたな空間的差異をつくりだし, 領域の同質化をめざすほどロカリティーの多様化が進む, という矛盾を生み出さざるを得ない. ここから, この2種類の生産された空間的に不均等な建造環境の編成が作り出す新たな素材的空間である「相関空間」をあらためて社会が実質的に包摂する, という課題が生じてくる. この相関空間の編成過程は, 集積とネットワークからなる空間と, さまざまな土地利用編成という集合的絶対空間の両面にわたって行われなくてはならない. これはいずれも, グローバルな空間の層のなかにあって個々のロカリティーが調整され, 新たな物質的空間としてまとめあげられてゆく過程である. ハーヴェイが語った, 「個別性や特定の場所と時間における経験と, 普遍的一般化との関係」という地理学的考察に取りついてきた「悪魔」(Harvey, 1985a, p. 61)は, こうした筋道だった空間的社会過程にかかわる考察によって解消することができる. そして同時にそのなかで, 地理学は, 経済・社会空間の編成論を究める分野として, 社会諸科学の分業のなかで自己の存在理由を主張することができるようになるのである.

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