- 著者
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村上 正人
- 出版者
- 特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
- 雑誌
- 日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
- 巻号頁・発行日
- vol.55, no.5, pp.398-403, 2004 (Released:2007-08-24)
- 参考文献数
- 14
- 被引用文献数
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人間の感情が動くときに象徴的な咳反応や咳症状が出現するように,咳は必ずしも気道の刺激だけではなく情緒的な刺激によっても生じることがある。いわゆる神経性咳嗽nervous coughは決して多い疾患ではないが,的確な診断と治療がなされないと,改善されぬまま慢性の経過をとりやすい。神経性咳嗽は何らかの心理的機制により,発作性,あるいは持続性に乾性咳嗽が生じるものである。しかし心因性,神経性といいながらよく病歴をとってみるとかつて急性上気道炎,咽喉頭炎や気管支炎に罹患したことが契機になり発症することが多い。長期間持続する慢性咳嗽の鑑別診断は慎重に行い,特に咳喘息との鑑別は重要である。咳反射に対する過敏性を獲得するプロセスに何らかの心理社会的ストレス要因が関与して発症するとされ,ヒステリーによる象徴的な症状(転換症状),内的緊張のはけ口としての咳,緊張時の音声チックと同様なメカニズムなどが考えられている。診断,治療に当たって,bio-psycho-socialな視点からの理解とアプローチが必要である。本症ではしばしば不安障害やうつ状態が合併しており,抗不安薬や抗うつ薬などの神経系作用薬がよく奏効することが多い。心理的要因が症状悪化につながっているときには専門的な心理療法を導入する。