著者
河合 直樹 八ツ塚 一郎
出版者
公益財団法人 集団力学研究所
雑誌
集団力学 (ISSN:21872872)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.223-249, 2013-12-28 (Released:2013-09-02)
参考文献数
18

本論文では、高校数学教科書に対する言説分析を通して、現行教科書そのものが数学嫌いを構造的に産出している可能性を指摘する。数学離れをめぐる議論は、学習者や教師の責任、または制度・政策の問題に縮減されがちである。それに対し、「教科書」という道具に着目し、現行教科書の批判的検討を通して数学教育の構造的陥穽を明らかにすることが本論文の目的である。 本論文の構成は下記の通りである。まず、教科書の言説に内在する問題を摘出するため、以下の3つの観点から分析を実施した。第1 に、教科書の目次配列を検討し、数学的には同じ系統に属するはずの多くの項目が、異なる複数の巻に散在している事実を指摘した。数学知が断片化し、数学としての体系性や学習目的が見えにくいという現行教科書の特徴が浮上した。第 2 に、教科書に記載されている練習問題等の設問を検討し、多くの問題が、直前に示された模 範解答への追従を学習者に求めていることを明らかにした。現行の高校数学課程は、教育者側の提示する枠組みを踏襲させることのみによって学習者の学びを達成させる教育システムとなっていることが示された。第3 に、本文の「語り口」に着目して、特異な教科書として知られる三省堂版の教科書と現行教科書とを比較分析した。その結果、学習者に主体的な判断を求める問いかけや、数学のダイナミックな展開を物語る呼びかけが、現行教科書では限りなく乏しいことが明らかとなった。 以上の分析を踏まえて、数学離れが現行の教科書システムに対する自然な適応の産物である可能性を、正統的周辺参加論を援用しつつ考察した。あわせて、学習者が目的的かつ主体的に数学学習に参入するための教科書を構想した。

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