著者
渥美 公秀 杉万 俊夫 森 永壽 八ツ塚 一郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.218-231, 1995-11-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
3
被引用文献数
2 1

本研究は, 1995年1月17日午前5時46分に発生した阪神大震災の被災地・被災者を救援するために組織された2つのボランティア組織-西宮ボランティアネットワークと阪神大震災地元NGO救援連絡会議-について参与観察法を用いて検討したものである。まず, 各組織の成立過程, および, 活動内容の概略を紹介した。次に, ボランティアに関する一般的な考察を行った上で, 両組織を災害救援における広域トライアングルモデルを用いて比較考察した。両組織には, 地元行政との関係, および, 将来への展望において明確な違いが見られた。
著者
河合 直樹 八ツ塚 一郎
出版者
公益財団法人 集団力学研究所
雑誌
集団力学 (ISSN:21872872)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.206-221, 2013-12-28 (Released:2013-09-02)
参考文献数
8

数学教育に携わる複数の関係者にインタビュー調査を実施し、言説体としての数学教科書の特徴を検討した。多くの関係者が努力を重ねているにもかかわらず、現行の数学教科書は、結果として学習者を数学から遠ざけ数学嫌いにしている可能性が示唆された。 高校教師に対するインタビューでは、教科書という言説体の位置づけが現状では中途半端で、現場の教師にとって使いにくいものとなっており、場合によっては不必要ですらあることが示 された。いわゆる成績上位の学校の場合、授業で使用されてはいるものの、教科書は最小限の情報しか含んでおらず、教師による補足が不可欠である。また、授業にあたっては問題集を使用することに力点が置かれ、教科書の比重は小さい。一方、いわゆる低学力校では、授業にあたって教科書は使い物にならず、学習者にとって不可解かつ無用の長物となっている。教師は授業にあたって、教科書の内容に相当の補足を行い、さらに教材を工夫するなど、多くの努力を強いられている。教科書は形骸化しており、無意味な存在となっていると言ってもよい。 現行教科書の整理された内容には評価もある一方、その課題を指摘する声は多い。教科書の内容は、数学的にみて不自然であり、学習者の思考のあり方からも乖離している。学習者の陥りがちな誤りに寄り添って思考を導くところがなく、数学を学ぶ意義や、数学の楽しさを見出しにくくなっているのが現状である。 教科書会社の編集者に対するインタビューでは、こうした指摘に理解が示される一方、そのために工夫をこらすと採用されにくくなるという矛盾した状況が示された。現場の教師は、指導しやすく受験勉強にも役立つ教科書を求める傾向があり、指導に工夫の必要な教科書は敬遠されがちな状況がある。 現行教科書は、いわば「数学らしきもの」を学習者に提示しているだけであり、その結果として「数学嫌い」を増やしている可能性がある。このような構造について考察するとともに、自由度が高く、学習する内容の意味を理解できる新しい教科書の条件を検討した。
著者
河合 直樹 八ツ塚 一郎
出版者
公益財団法人 集団力学研究所
雑誌
集団力学 (ISSN:21872872)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.223-249, 2013-12-28 (Released:2013-09-02)
参考文献数
18

本論文では、高校数学教科書に対する言説分析を通して、現行教科書そのものが数学嫌いを構造的に産出している可能性を指摘する。数学離れをめぐる議論は、学習者や教師の責任、または制度・政策の問題に縮減されがちである。それに対し、「教科書」という道具に着目し、現行教科書の批判的検討を通して数学教育の構造的陥穽を明らかにすることが本論文の目的である。 本論文の構成は下記の通りである。まず、教科書の言説に内在する問題を摘出するため、以下の3つの観点から分析を実施した。第1 に、教科書の目次配列を検討し、数学的には同じ系統に属するはずの多くの項目が、異なる複数の巻に散在している事実を指摘した。数学知が断片化し、数学としての体系性や学習目的が見えにくいという現行教科書の特徴が浮上した。第 2 に、教科書に記載されている練習問題等の設問を検討し、多くの問題が、直前に示された模 範解答への追従を学習者に求めていることを明らかにした。現行の高校数学課程は、教育者側の提示する枠組みを踏襲させることのみによって学習者の学びを達成させる教育システムとなっていることが示された。第3 に、本文の「語り口」に着目して、特異な教科書として知られる三省堂版の教科書と現行教科書とを比較分析した。その結果、学習者に主体的な判断を求める問いかけや、数学のダイナミックな展開を物語る呼びかけが、現行教科書では限りなく乏しいことが明らかとなった。 以上の分析を踏まえて、数学離れが現行の教科書システムに対する自然な適応の産物である可能性を、正統的周辺参加論を援用しつつ考察した。あわせて、学習者が目的的かつ主体的に数学学習に参入するための教科書を構想した。