著者
渡 正
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.27-41, 2020-09-30 (Released:2021-10-15)
参考文献数
19

本稿は、スポーツにおけるコーチングを指導者―選手間のコミュニケーションとして捉え、それがいかなる相互行為によって達成されているのかを提示するものである。それによってスポーツコーチングがスポーツ社会学にとっての重要な研究課題であることを示す。まず、日本のコーチング研究においてコーチングがどのように理解されているかを明らかにした。コーチングとは指導者と選手の「主観のチャンネル」を合わせること、との指摘があったもののその具体的内容は明らかになっていなかった。またテキストの検討からは「指導の方法」とされていることの多くが、「指導の種類、メニュー」の提示であり、具体的な指導手順の説明がないことが判明した。 次に社会学におけるエスノメソドロジー研究に基づくスポーツコーチング研究について検討を行った。指導は(1)コーチによる修正の開始、(2)間違いの提示、(3)解決策の提案という連鎖として提示されていた。特に、指導者による「失敗の再現」は、選手に何が失敗だったかの理解を作り上げる点で重要である。また、「ボールに関連したカテゴリー」やコートの空間的分割によって、選手の身体の相対的位置が規範的に決定されることが、指導者と選手双方の理解の資源となるという。 最後に、日本における大学フットサル部の練習についてその録画データの検討を行った。日本のスポーツコーチングにおいても、エスノメソドロジー的研究の結果と同様の相互行為の連鎖が析出された。これらのことから、スポーツコーチングのある場面においては、修正の開始、間違いの提示、解決策の提案という連鎖が基礎的な手順であることが確認できた。そしてこの手順が、練習あるいは指導において、指導者にとっても選手にとっても共通に理解可能で合理的なものとして秩序づけられ、利用されていることを明らかにした。

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