著者
熊谷 正芳 石渡 正人 大谷 眞一
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.84, no.863, pp.18-00139, 2018 (Released:2018-07-25)
参考文献数
18

Residual stress measurements on pipe-shaped Ni-alloy, Inconel 625, were conducted. The pipes were made from a thin plate by roll-bend and weld along longitudinal direction of the pipe. Shot peening processes were performed to the outside surface of the pipes. The stresses were measured using X-ray stress measurement method. The residual stresses on the specimen before shot peening process were around 100 MPa toward longitudinal direction and around 250 MPa toward transvers direction to the welding direction. The residual stresses changed to 800 MPa in compressive by shot peening process. After thermal aging at 1173 K for 1 and 10 hour, the residual stresses changed to −100 MPa on the specimens with and without shot peening in both longitudinal and transvers directions. In addition, optical microscopic observation and the analyses of X-ray diffraction peaks were performed to reveal microstructural features due to welding, shot peening, and thermal aging. Equiaxed and columnar dendrites were generated in the center and the outer of fusion zone, respectively. The grains in the heat affected zone, between the fusion zone and base metal became larger. The grains near the surface even in welds became small by shot peening processes according to analyses of X-ray diffraction peaks. Even though induced compressive residual stresses were released during thermal ageing, refined grains had been smaller than before shot peening process.
著者
遠山 健太 鈴木 宏哉 渡 正
出版者
Japan Society of Human Growth and Development
雑誌
発育発達研究 (ISSN:13408682)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.95, pp.52-70, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
36

The decline in children's physical fitness has become a widely recognized problem in recent years. To address this issue, the Japanese government introduced the New Physical Fitness Test in 2008. The latest report shows that more than 80% of elementary schools throughout Japan have been complying with this directive. According to the Japan Sports Agency, 71.1% of the schools were using the test results to help develop their yearly plans; however, as the questionnaires were answered by each of the schools, it is unclear whether the elementary school teachers were actually using the test results effectively or not. The purpose of this research is to identify elementary school teachers' attitude toward the physical fitness test, and to determine how they are utilizing it as an educational tool to stimulate and promote students' personal fitness goals. The research was conducted among 840 teachers who are currently working at elementary schools across Japan. The questionnaires consisted of a total of 11 questions, of which nine required descriptive answers. The KJ method was used to categorize each answer into smaller groups of similar answer. The results showed that the elementary school teachers had both positive and negative perceptions of the physical fitness test, and the two major findings were as follows: (1) Although some of the teachers used the fitness test in their class, they were unable to identify a relationship between the education guidelines and the fitness test; therefore, they could not utilize the test results effectively. (2) Teachers felt burdened by the limited time they have to prepare and manage the New Physical Fitness Test. According to these findings, there should be clearer guidelines on how to use the test effectively, so that both teachers and students will be able to utilize the assessment and implement it to improve their fitness.
著者
湯口 聡 森沢 知之 福田 真人 指方 梢 増田 幸泰 鈴木 あかね 合田 尚弘 佐々木 秀明 金子 純一朗 丸山 仁司 樋渡 正夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D0672, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】 開胸・開腹術後患者に対して呼吸合併症予防・早期離床を目的に、呼吸理学療法・運動療法が行われている。その中で、ベッド上で簡易に実施可能なシルベスター法を当院では用いている。シルベスター法は両手を組み、肩関節屈伸運動と深呼吸を行う方法で、上肢挙上で吸気、下降で呼気をすることで大きな換気量が得られるとされている。しかし、シルベスター法の換気量を定量的に報告したものはない。よって、本研究はシルベスター法の換気量を測定し、安静呼吸、深呼吸と比較・検討することである。【方法】 対象は呼吸器疾患の既往のない成人男性21名で、平均身長、体重、年齢はそれぞれ171.0±5.2cm、65.3±5.6kg、24.9±4.0歳である。被験者は、安静呼吸・シルベスター法・安静呼吸・深呼吸・安静呼吸または、安静呼吸・深呼吸・安静呼吸・シルベスター法・安静呼吸のどちらか一方をランダムに選択した(各呼吸時間3分、計15分)。測定姿位は全てベッド上背臥位とし、呼気ガス分析装置(COSMED社製K4b2)を用いて、安静呼吸・シルベスター法・深呼吸中の呼吸数、1回換気量を測定した。測定条件は、シルベスター法では両上肢挙上は被験者が限界を感じるところまでとし、どの呼吸においても呼吸数・呼吸様式(口・鼻呼吸)は被験者に任せた。統計的分析法は一元配置分散分析および多重比較検定(Tukey法)を用い、安静呼吸、シルベスター法、深呼吸の3分間の呼吸数、1回換気量の平均値を比較した。【結果】 呼吸数の平均は、安静呼吸13.02±3.08回、シルベスター法5.26±1.37回、深呼吸6.18±1.62回であった。1回換気量の平均は安静呼吸0.66±0.21L、シルベスター法3.07±0.83L、深呼吸2.28±0.8Lであった。呼吸数は、分散分析で主効果を認め(p<0.01)、多重比較検定にて安静呼吸・シルベスター法と安静呼吸・深呼吸との間に有意差(p<0.01)を認めたが、シルベスター法・深呼吸との間に有意差は認めなかった。1回換気量は、分散分析で主効果を認め(p<0.01)、多重比較検定にて安静呼吸・シルベスター法・深呼吸のいずれにも有意差を認めた(p<0.01)。【考察】 シルベスター法は深呼吸に比べ1回換気量が高値を示した。これは、上肢挙上に伴う体幹伸展・胸郭拡張がシルベスター法の方が深呼吸より大きくなり、1回換気量が増加したものと考えられる。開胸・開腹術後患者は、術創部の疼痛により呼吸に伴う胸郭拡張が制限されやすい。それにより、呼吸補助筋を利用して呼吸数を増加させ、非効率的な呼吸に陥りやすい。今回、健常者を対象に測定した結果、シルベスター法は胸郭拡張性を促し、1回換気量の増加が図れたことから、開胸・開腹術後患者に対して有効である可能性が示唆された。
著者
渡 正
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.25-38, 2007-03-20 (Released:2011-05-30)
参考文献数
28

本稿は車椅子バスケットボールを対象として、そのスポーツとしての「固有性」と「面白さ」がどのように達成されているかを、クラス分けというルールに焦点を当て論じたものである。ルールに関心を向ける理由としては、当事者の実践を支えているのがルールであること、またルールによって個々の行為が実践として意味あるものになるためである。個々のスポーツの「面白さ」は、課せられた条件を戦略的に克服していく過程にある。そしてその「条件を課す」のがルールである。そのためクラス分けのルールが車椅子バスケットにおいて、どのように構成されているのかを考えることで、車椅子バスケットの「面白さ」・「固有性」も見えてくる。車椅子バスケットボールのクラス分けは「各人のインペアメントを持ち点とみなす」という構成的ルールである。日常において「できない」とされるものを、持ち点という形で車椅子バスケットにおける「できること」へと変換する。試合中の5人の持ち点の合計が14点を超えてはならないというクラス分けの規定は、試合において持ち点の違いという形ではあるが、コート上にいる選手の身体の平等を達成してはいないといえるのである。だがこれこそチームの持ち点構成や他のルール、さらには車椅子という「固定的な幅」をも視野に入れた車椅子バスケットの戦術性を生み出し、それに伴う面白さを作りだす。クラス分けはこの意味で、車椅子バスケット独自の「面白さ」を生むための構成的な要件であり、車椅子バスケットの「固有性」の前提を生み出しているといえることを論じる。それには、スポーツのもつ「勝ち/負け」のコード、競争という要素の存在が重要であることを指摘した。最終的には、本稿は、記録の達成や競争での勝敗を単純に否定してしまわない、つまりスポーツのもつ「勝ち/負け」というコードを中心に据えた adapted sports の可能性を指摘する。
著者
吉原 智仁 森本 忠嗣 塚本 正紹 園畑 素樹 馬渡 正明
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.845-848, 2016-09-25 (Released:2016-12-06)
参考文献数
15

比較的稀な脊髄硬膜外血腫の3例を経験した.症例は,男性1例,女性2例,年齢は49歳,71歳,73歳である.発症時の症状はいずれも突然の背部痛であり,2例はその後麻痺を認めた.既往歴は高血圧2例,Hippel Lindau病1例であった.抗凝固薬内服例はなかったが,1例は片麻痺を呈していたため脳梗塞と判断され,t-PA治療がなされていた.血腫部位は頸椎部1例,頸胸椎部2例であった.背部痛のみで麻痺を認めなかった1例は保存治療を行い,不変・増悪の2例(t-PA治療例含む)は手術を行い,2例ともに改良Frankel分類でC1からEへと改善した.麻痺を呈さない症例については保存治療,麻痺の程度が不変・増悪例については手術治療が有効であった.また脊髄硬膜外血腫は片麻痺で発症する場合もあり,脳梗塞と誤診されt-PA治療により血腫増大,麻痺増悪を来たした報告も散見され,注意を要する疾患である.
著者
湯口 聡 丸山 仁司 樋渡 正夫 森沢 知之 福田 真人 指方 梢 増田 幸泰 鈴木 あかね 合田 尚弘 佐々木 秀明 金子 純一朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.D0672, 2005

【目的】<BR> 開胸・開腹術後患者に対して呼吸合併症予防・早期離床を目的に、呼吸理学療法・運動療法が行われている。その中で、ベッド上で簡易に実施可能なシルベスター法を当院では用いている。シルベスター法は両手を組み、肩関節屈伸運動と深呼吸を行う方法で、上肢挙上で吸気、下降で呼気をすることで大きな換気量が得られるとされている。しかし、シルベスター法の換気量を定量的に報告したものはない。よって、本研究はシルベスター法の換気量を測定し、安静呼吸、深呼吸と比較・検討することである。<BR>【方法】<BR> 対象は呼吸器疾患の既往のない成人男性21名で、平均身長、体重、年齢はそれぞれ171.0±5.2cm、65.3±5.6kg、24.9±4.0歳である。被験者は、安静呼吸・シルベスター法・安静呼吸・深呼吸・安静呼吸または、安静呼吸・深呼吸・安静呼吸・シルベスター法・安静呼吸のどちらか一方をランダムに選択した(各呼吸時間3分、計15分)。測定姿位は全てベッド上背臥位とし、呼気ガス分析装置(COSMED社製K4b2)を用いて、安静呼吸・シルベスター法・深呼吸中の呼吸数、1回換気量を測定した。測定条件は、シルベスター法では両上肢挙上は被験者が限界を感じるところまでとし、どの呼吸においても呼吸数・呼吸様式(口・鼻呼吸)は被験者に任せた。統計的分析法は一元配置分散分析および多重比較検定(Tukey法)を用い、安静呼吸、シルベスター法、深呼吸の3分間の呼吸数、1回換気量の平均値を比較した。<BR>【結果】<BR> 呼吸数の平均は、安静呼吸13.02±3.08回、シルベスター法5.26±1.37回、深呼吸6.18±1.62回であった。1回換気量の平均は安静呼吸0.66±0.21L、シルベスター法3.07±0.83L、深呼吸2.28±0.8Lであった。呼吸数は、分散分析で主効果を認め(p<0.01)、多重比較検定にて安静呼吸・シルベスター法と安静呼吸・深呼吸との間に有意差(p<0.01)を認めたが、シルベスター法・深呼吸との間に有意差は認めなかった。1回換気量は、分散分析で主効果を認め(p<0.01)、多重比較検定にて安静呼吸・シルベスター法・深呼吸のいずれにも有意差を認めた(p<0.01)。<BR>【考察】<BR> シルベスター法は深呼吸に比べ1回換気量が高値を示した。これは、上肢挙上に伴う体幹伸展・胸郭拡張がシルベスター法の方が深呼吸より大きくなり、1回換気量が増加したものと考えられる。開胸・開腹術後患者は、術創部の疼痛により呼吸に伴う胸郭拡張が制限されやすい。それにより、呼吸補助筋を利用して呼吸数を増加させ、非効率的な呼吸に陥りやすい。今回、健常者を対象に測定した結果、シルベスター法は胸郭拡張性を促し、1回換気量の増加が図れたことから、開胸・開腹術後患者に対して有効である可能性が示唆された。
著者
渡 正
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.53-65, 2014

本稿の目的は、スポーツ社会学が質的研究を行う上で重要だと考えられる論点を提示することにある。それは端的に言ってそのスポーツ実践がもつ固有の論理を描くべきだという点に尽きるだろう。スポーツ実践固有の論理を見つめることによって、スポーツ実践の中に研究対象の「社会的なるもの」を描くことが質的研究のダイナミクスである。だが、これまでのスポーツ社会学は、こうした「スポーツ実践固有の論理」を描くことにどこまで自覚的だったろうか。<br> かつての機能主義的なスポーツ社会学においては、「スポーツを社会に従属するもの」と想定し、全体社会の変化や特徴がスポーツにそのまま反映されるという立場をとった。ここで採用されたスポーツと社会の関係性のありようは、今なお質的研究を行おうとする際に陥りやすいものでもある。そこで、スポーツ実践固有の論理を描いた最近の研究としてフィリピンのローカルボクサーと車椅子バスケットボール実践のエスノグラフィを取り上げた。<br> 前者は、スポーツ実践とそれが存立する社会的機制を問題化し、その交差点にボクサーの日常、つまりスポーツの経験があるとする。後者は、スポーツ実践のさなかに様々な「社会なるもの(the social)」が現出するとする。つまり、スポーツの経験とは、その実践の文脈における相互行為とし て達成されるものと捉える。いずれにせよ、この二つのスポーツ実践の質的研究は、当事者たちの実践が行われるその「固有の論理」に照準し、質的な調査や分析はその把握のために用いられている。 「固有の実践の論理」を描くことを重視する立場は、スポーツをとりまく社会的事実(社会構造や規範)を外挿することでスポーツ実践を説明しないという態度でもある。徹底して相互行為の中で/中からスポーツ実践を捉え、その実践の固有の論理を描くことが、スポーツの経験を社会学することなのだろう。
著者
山本 茂貴 石渡 正樹
出版者
The Japan Society of Veterinary Epidemiology
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.51-62, 1998
被引用文献数
1

食中毒による被害はこれまで事件数, 患者数, 死者数という直接的な被害を表す数値によって表現されてきた。しかし, このような指標は原因の異なる食中毒の被害を十分に比較できず, 食中毒が社会的又は経済的に及ぼす影響について評価し難いという問題を持っている。<BR>細菌性食中毒による経済損失の推計方法及び推計に必要なデータを調べるために米国農務省のBuzbyらが行ったcost-of-illnessの推計方法を検討した。<BR>その結果, 現在の日本ではBuzbyらが使用したものと同様な疫学データがないために同じ方法で推計を行うことができないことが判明した。そのため, 現在入手可能なデータを使用して横浜市におけるサルモネラ食中毒のcost-of-illnessの推計を行なった結果, 1991~1995年に横浜市内でおきた食中毒事件のcost-of-illnessはおよそ850万円 (1993年の円に換算) (1年あたり平均約170万円, 患者1人あたりの費用は約44, 000円) , 横浜市民のなかで発生したサルモネラ食中毒の1年間のcost-of-illnessはおよそ7, 700万~5億3, 000万円) (患者1人あたりの費用は約23, 000円) と推計された。<BR>今後, 精度の高いcost-of-illnessの推計を行うためには, 使用する質の高いデータを得るための疫学研究の充実が必要であると考えられる。
著者
深江 航也 高原 剛 石渡 正浩
出版者
一般社団法人 千葉県理学療法士会
雑誌
理学療法の科学と研究 (ISSN:18849032)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.14_21-14_25, 2023-03-24 (Released:2023-03-24)
参考文献数
4

本稿では,理学療法士の卒前教育と新生涯学習制度と当院での教育システムを融合した取り組みと,今後の展望をまとめた。近年,卒前教育の違いや,コロナ禍の影響で十分な臨床実習を経験できていないことなどで新入職員の能力はスタッフ間で様々であり,十分な指導や手助けが必要な新入職員が多いのが現状である。その為,当院では独自の患者レベル分け,チェックリストを用いながら個々のスタッフの成長スピードに合わせた教育システムを展開している。課題として,On the Job Training(以下OJT)を中心とした教育システムを導入しているが指導者を担う経験者数が少なく,一人の指導者に負担が多くかかる現状に陥っている。多くのスタッフに一定水準の卒後教育を提供し,安全に理学療法を提供することができる能力を担保するために当院の教育システムと新生涯学習制度の融合は必要であると考える。
著者
渡 正伸 片山 達也
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.626-630, 2006-05-15 (Released:2017-03-29)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

肺癌術後に健側肺のみに出現した急性肺障害のため術後ARDSに陥った症例を経験した.肺癌術後にALIやARDS等の急性肺障害を発症する場合,その多くは術前から肺に線維性変化が認められることが多く,術後急性増悪として理解されている.術後急性増悪によるARDS症例では通常,肺障害は両側性に現れるが,自験例では手術操作を加えていない健側肺にだけ認められた.なぜ手術操作を加えていない健側肺にのみ急性肺障害が生じたのか原因不明である.術中片肺換気におけるdepending lungであるためventilator-induced lung injuryの関与が疑われるが推論の域を出ない.過去に健側肺のみに生じた肺癌術後急性肺障害に焦点をおいた報告はなく,急性肺障害発症のメカニズムを探求する上でも貴重な症例と考え報告する.
著者
渡 正
出版者
現代文化人類学会
雑誌
文化人類学研究 (ISSN:1346132X)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.37-53, 2021 (Released:2021-01-21)
参考文献数
16

本稿では、オスカー・ピストリウスやマルクス・レームのパラリンピック/オリンピック秩序への挑戦を事例として、それがどのように問題化されていったかを朝日新聞の記事を追った。記事の変化からは、それまで肯定的な評価をされていた義足が、ピストリウスの越境以降、明確に問題含みのものとされていったことや、それが義足の性能とその公平性への問題と矮小化されていったことが判明した。 このような義足のアスリートを理解するモデルとして、福島真人による身体のモデル1・2を確認した。義足のアスリートの「問題」は近代スポーツの想定する自然な身体=身体0からの「過剰」として捉えることができた。さらにこの問題を乗り越えるモデルとして福島のいうモデル2的な身体、あるいはサイボーグの身体のメタファーを概観した。また、こうしたメタファーが失敗する事例として義手ラケットによるテニス選手を検討した。この事例は、私達が義足に関しては、それを過剰に身体化して議論していることを明らかにしてくれた。 そこで本稿では障害学/社会学における議論を参照し、スポーツにおける障害者アスリート、あるいは義足のアスリートの排除の位相にいくつかの区別があることを確認した。 スポーツにまつわる多くの議論は「義足は身体か」という問いをめぐるが、その前提には、義足が身体として捉えられないという想定があった。義足の問題は、「人工物の装置」が「身体」化することで浮かび上がる、身体の内部にある外部=異質性なのではないか。外部と内部のカテゴリーミステイクが、スポーツにおける議論を不明瞭にしている。身体と外部環境との相互作用システムとしてのアスリートという理解は、陸上のような個人競技ではいまだ想像力の埒外にあるものの、チームスポーツにおいては問題なく成立している現実でもある。
著者
前鼻 啓史 渡 正 伊藤 真紀 鈴木 宏哉 渡邉 貴裕
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.69, pp.290_3, 2018

<p> 2020東京パラリンピックのレガシーにより、著しく障害者スポーツに関するニーズが高まることが予想される。したがって、量的普及の後に期待される質的な充実や多様なニーズに対応できる基盤を如何に構築していくかという課題がある。2012ロンドンパラリンピックを契機に同様の課題を抱え、かつ先進的な経験と知見を有する英国の障害者スポーツに関する事例は、日本にとって有益な情報を提供してくれるものと考えられる。そこで、本研究は英国エヴァートンフットボールクラブにおける障害者サッカーの包括的な取り組みについて明らかにすることを目的とした。英国にてクラブの代表者へインタビュー調査を実施するとともにクラブの活動資料を収集し調査内容を質的に分析した。調査の結果、多様なニーズに対応した多種目の障害者サッカーチームを組織しているとともに、地域の特別支援団体と提携し、毎年千人程度の障害のある子どもや大人を対象としたサッカーや身体活動の機会を提供するマルチスポーツプログラムを有していることが明らかとなった。今後は本研究で得られた知見やノウハウをもとに、次世代型パラスポーツモデルの拠点形成に関する取り組みへと繋げていきたい。</p>
著者
田島 智徳 西田 圭介 會田 勝広 森本 忠嗣 北島 将 小河 賢司 馬渡 正明 佛淵 孝夫
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.626-629, 2007 (Released:2007-11-27)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

日常生活における前屈動作は股関節と脊椎の協調動作であり互いに密接に関わりあっている.変形性股関節症患者における股関節と脊椎の前屈時の動作関係を明らかにするために,立位中間位および座位前屈位の単純X線側面像を用いて股関節可動域と腰椎可動域を測定した.対象は初回人工股関節全置換術を受けた40~88歳(平均62歳)の変形性股関節症の女性患者164例であり,術前の単純X線で評価した.中間位からの前屈動作で股関節と腰椎と合計して80~120度屈曲していた.腰椎変性の強い高齢者ほど前屈時の腰椎可動域が小さく,変形性股関節症があるのにもかかわらず主に股関節で前屈していた.中高年者は腰椎変性が進行していないため,主に腰椎で前屈しており股関節可動域は小さかった.そのため変形性股関節症の罹病期間が長くなると腰椎へ過度の負荷がかかることとなり,腰痛や腰椎変性の原因となることが予想される.
著者
渡 正
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.27-41, 2020-09-30 (Released:2021-10-15)
参考文献数
19

本稿は、スポーツにおけるコーチングを指導者―選手間のコミュニケーションとして捉え、それがいかなる相互行為によって達成されているのかを提示するものである。それによってスポーツコーチングがスポーツ社会学にとっての重要な研究課題であることを示す。まず、日本のコーチング研究においてコーチングがどのように理解されているかを明らかにした。コーチングとは指導者と選手の「主観のチャンネル」を合わせること、との指摘があったもののその具体的内容は明らかになっていなかった。またテキストの検討からは「指導の方法」とされていることの多くが、「指導の種類、メニュー」の提示であり、具体的な指導手順の説明がないことが判明した。 次に社会学におけるエスノメソドロジー研究に基づくスポーツコーチング研究について検討を行った。指導は(1)コーチによる修正の開始、(2)間違いの提示、(3)解決策の提案という連鎖として提示されていた。特に、指導者による「失敗の再現」は、選手に何が失敗だったかの理解を作り上げる点で重要である。また、「ボールに関連したカテゴリー」やコートの空間的分割によって、選手の身体の相対的位置が規範的に決定されることが、指導者と選手双方の理解の資源となるという。 最後に、日本における大学フットサル部の練習についてその録画データの検討を行った。日本のスポーツコーチングにおいても、エスノメソドロジー的研究の結果と同様の相互行為の連鎖が析出された。これらのことから、スポーツコーチングのある場面においては、修正の開始、間違いの提示、解決策の提案という連鎖が基礎的な手順であることが確認できた。そしてこの手順が、練習あるいは指導において、指導者にとっても選手にとっても共通に理解可能で合理的なものとして秩序づけられ、利用されていることを明らかにした。