著者
谷田貝 亜紀代 安成 哲三
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.799-815, 1998-10-25 (Released:2008-01-31)
参考文献数
27
被引用文献数
34 45

ユーラシア大陸内陸の乾燥地域周辺は、砂漠化の問題が生じている地域であり、それらの地域の水循環の変動を、全球、大陸スケールの気候変動とあわせて明らかにすることは不可欠である。内陸の乾燥地域においても、夏季にしばしば強い降水がみられるが、それに関連する水蒸気輸送場は、若干の事例解析があるのみで、気候変動と関連づけて研究した例はほとんどない。そこで、本研究はまず、ユーラシア大陸内陸の乾燥地域周辺における夏季の水蒸気輸送とその収束発散場をヨーロッパ中期予測センター(ECMWF)の再解析データを5年間(1980-1984年)について使用して調べた。夏季平均の鉛直積分された水蒸気フラックス場は、モンゴルと中国北部には北西方向からの水蒸気が輸送されることを示す。平均場では、これらの地域の水蒸気源は西シベリアと、さらにその西方向である。大陸のうち最も乾燥したタクラマカン砂漠への、対流圏下層の水蒸気輸送場をみると、この地域の北西方向からの水蒸気が天山山脈の東側をまわりこむように水蒸気が輸送されていることがわかった。次にタクラマカン砂漠の降水と日平均水蒸気輸送場の関係を統計的に調べた。タクラマカン砂漠周辺の全層水蒸気フラックス場をクラスター分析により、まず8パターンに分類した。次に、日降水量と大気循環場をこれらのクラスターごとに合成した。全体の約9割は、平均場に似て、北西からの輸送に関係したパターンであり、このケースの場合、上空にトラフが存在する時に降雨がみられる。しかし、時折、チベット高原を越えて南から水蒸気が流入し、同時にタクラマカン東部(チベット高原の北東側)の下層で東から水蒸気が入り込むことがあり、このパターンはタクラマカンの強い降水と関係している。大気循環場の特徴として、500hPa等圧面高度の合成図をみると、南西方向に深く伸びたトラフがタクラマカンの北側に出現し、これと同時に中央アジアではリッジが現れる。東風の見られるタクラマカン東部には下層に低気圧が存在する。このケースは、全体の10%以下であるが、出現は多雨年に偏り、多雨年(1981, 1984)の夏季降水量の約半分がこのような循環場でもたらされている。

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