- 著者
-
岡部 悟志
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.59, no.3, pp.514-531, 2008-12-31 (Released:2010-04-01)
- 参考文献数
- 25
- 被引用文献数
-
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本稿は,子ども期から成人期にかけての能力形成の過程を計量的に検討するものである.本田(2005)は,子ども期の家族コミュニケーションが豊富であることが,意欲や対人関係力,人柄,情動などを含めた学力以外の能力(=能力β.注4参照)を高める主な規定要因であると結論づけている.この本田の研究成果に検討を加えたうえで,新たに子ども期の家庭の経済状況,コミュニケーション対象の家族内から家族外への移行という2つの要因を付加した作業仮説モデルを構築し,調査データによる検証を行った.その結果,能力βの形成に対して,他の変数の影響を取り除いたうえで観測される家族コミュニケーションの直接的な効果は,本田が主張するほど決定的な影響力をもっていないこと,その一方で,出身家庭の経済力の関与や,家族コミュニケーションから家族外コミュニケーションを媒介した間接効果(=子どもの社会的自立の過程)などが,一定の影響力をもっていることが明らかとなった.この分析結果は,能力βの規定要因をもっぱら家族の内部に求めるものではなく,むしろ,家族の外部の資源をいかした能力βの形成ルートが存在することを意味している.以上を踏まえ,さいごに,能力形成の格差・不平等問題に対する政策的介入の可能性や,過剰なまでに高まった家庭の教育力言説をクール・ダウンさせる可能性などが示された.