- 著者
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正村 俊之
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.64, no.3, pp.460-473, 2013 (Released:2014-12-31)
- 参考文献数
- 17
- 被引用文献数
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東日本大震災をリスク論の観点から分析するならば, そこには4つのタイプのリスクが存在する. まず, 津波災害に関連する「津波リスク」と原発災害に関連する「原発リスク」があり, この2つのリスクは, さらにそれぞれ災害の発生にかかわる「災前リスク」と被災地の復興にかかわる「災後リスク」に分けられる. 本報告の狙いは, リスク対策と知, リスクと無知の関係を明らかにしながら, これらのリスクの発生に共通する構造を分析することにある. 科学の発展をもたらしたのは, 知の働きによって未知が既知へと転換し, それによって新たな未知が生まれるという「未知の螺旋運動」であったが, 知と無知の間にもそれと類似した「無知の螺旋運動」が起こる. 津波災害と原発災害のいずれにおいても, リスク対策を講ずる過程で新たなリスクが発生するという逆説的な事態が起こっているが, このパラドックスは, 知の働きによって無知が既知へと転換し, それによって新たな無知が生まれるという「無知の螺旋運動」に起因している.