著者
盛山 和夫
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.14-27, 2016-05-31 (Released:2019-06-20)
参考文献数
24

社会のあり方をめぐっては,かつては資本主義か社会主義かというイデオロギー対立があった.今日,その意義は失われているが,代わりに,いわゆる「大きな政府か小さな政府か」というイデオロギー対立が出現している.一方の極にあるのは新自由主義で,市場システムの効率性を前提に,社会保障など政府の経済への介入はできるだけ少ない方が望ましいと考える.他方の極には,福祉の理念的価値を重視するあまりに,福祉サービスや支援を提供することに伴う資源条件や制度的しくみへの考察を「不純」なこととして排除する福祉絶対主義がある.この立場は,脱生産主義といった考え方やワークフェアへの短絡的な批判などに現れている. 新自由主義は,じつは経済理論としても間違っているのだが,経済学者の間では正しいものと信じこまれていて,マスメディアでのプレゼンスは高い.他方,福祉絶対主義は資源条件と制度的しくみを無視する点においてやはり空論的である.また,ここまで極端ではなくても,福祉価値を重視する社会福祉論には財源問題への答えを用意しない「マナ型福祉論」が多く,それは新自由主義と対抗する上で説得力に欠ける.それらに代わって,社会保障および社会福祉の制度をめぐる議論は,市民的共同性をめざすという福祉の理念的価値を重視すると同時に,その経験的な実現可能性も重視するという二つの条件を満たすべきである.これはコモンズ型の福祉論として展開されることになる.

言及状況

外部データベース (DOI)

Twitter (1 users, 1 posts, 0 favorites)

盛山和夫、2016、コモンズ型の社会福祉論を──イデオロギー対立を超えて(『福祉社会学研究』13) https://t.co/jUEtBBILXc

収集済み URL リスト