- 著者
-
倉橋 耕平
- 出版者
- 関西社会学会
- 雑誌
- フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
- 巻号頁・発行日
- vol.20, pp.43-51, 2021 (Released:2022-07-08)
- 参考文献数
- 26
2010年代の政治研究の1つの特徴は右派ポピュリズムへの注目である。2010年代の政治において「何が破壊され、何が生まれたのか?」。本稿は、まず日本社会のイデオロギー変容を調査研究から確認し、その後で2010年代の政治コミュニケーションの特徴を検討する。90年代以降有権者のイデオロギー理解に保守-革新の差異が目立たなくなった。その結果、反エスタブリッシュメントのポピュリズム政党が登場することとなった。その象徴的な出来事の1つが、40代以下の世代では「日本維新の会」が最も「革新」であると調査に回答していることである。これはアカデミズムが定義する「革新」と一般社会の理解が異なることを意味している。この状況は「私たち/彼ら」の線を作り出すことを主流な方法とする(右派)ポピュリズムと非常に親和的である。実際、(ネット)右翼の用いる言葉は、しばしば「私たち」研究者が用いる意味とは異なり、特定の言葉の持つ従来の意味や歴史、文脈を無視して用いられている。しかし、「彼ら」は特定の言葉の使い方を共有する人たちとともに意味の節合と脱節合を繰り返し、党派(=新しい政治主体)を作り上げる。その結果、両党派の間の対話は著しく困難となり、「トライバリズム」が深まることになった。最終的に本稿では、対話や議論が不可能になり、党派や敵対性が重視されるとき、権力が前景化すると論じた。