著者
上田 康夫 丸尾 原義 足高 善彦 深山 知子 本田 由佳 中林 正雄
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.275-286, 2004 (Released:2004-09-30)
参考文献数
27
被引用文献数
1

【目的】正常および妊娠中毒症母体の妊娠経過に伴う体脂肪(Fat Mass:FM),体水分(Total Body Water:TBW)の動態を生体インピーダンス法(bioelectrical impedance analysis:BIA)に胎児部分重量補正を加えた妊婦体成分測定系によって明らかにしようとした. 【方法】兵庫県立柏原病院で管理した妊婦358例を対象とし,1)妊娠6週から16週までの正常妊婦66例,2)妊娠末期から産褥期の正常妊婦44例,3)非妊時体型(やせ:BMI<18,標準:18~24,肥満:>24)と妊娠期間中の全体重増加量によって区分された正常および妊娠中毒症関連疾患妊婦290例である.これらの妊婦は健診時に体脂肪計(タニタTBF-410)による両足間インピーダンス測定を行い,FM,TBWを算出した. 【成績】妊娠6週から16週までの体重変化はFMおよびTBWと有意な正相関を示し,FM,TBWの体重に対する比率は前者が57%,後者が29%を示した.正常妊婦での母体体重およびTBW増加が妊娠期間を通じてほぼ一定であったのに反し,そのFMの増加勾配は妊娠前半期に著明で後半期には明らかに抑制された.とくに肥満体重増加不良群でのFMは非妊時レベル以下に下降した(肥満<7kg:1.0±2.1kg).妊娠中の体重増加はTBWよりFMとの相関性が高かったが,産褥1ヵ月間の体重減少は逆にTBWの減少に起因するものであった.一方,中毒症関連疾患のうち中毒症重症(高血圧主徴,純粋型)におけるFMは初期より明らかに減少し36週には-2.6±3.2kgと対照2.8±1.8kgに比べて有意に低値であり,中毒症軽症や妊娠浮腫と対照的であった.他方, TBWは4群とも36週には対照より高値であり,とくに妊娠浮腫重症では6.6±2.4kgと明らかな高値を示し,とくに妊娠浮腫群では体重との相関が高かった.一方,二次元座標系による分析では妊娠浮腫,中毒症軽症が第1象限内を推移し末期には正常>10kg群にオーバーラップしたのに反し,妊娠浮腫重症は後期にTBWが急増し第1象限をY軸方向へ推移した.他方中毒症重症は初期より第4象限を左上方に偏倚した.また,妊娠36週でのFM,TBW増加量による分類によると妊娠浮腫軽症はFM過少-TBW過剰群を除いた8群間に広く分布したのに反し,妊娠浮腫重症はFM過少/正常-TBW過剰群に,中毒症軽症はFM過剰-TBW正常/過剰群に分布した.他方中毒症重症はFM過少-TBW正常/過剰群に局在した.他方,妊娠浮腫軽症と診断した例のうち実際にTBW過剰であったものは37%であった. 【結論】本測定系の応用によって母体体重変化をFMとTBWの2つに分けて把握することが日常診療の場で可能になり,妊娠浮腫軽症という診断自体の不確実性が明らかになった.一方,中毒症重症ではFMの著明な減少とTBWの相反的な増加が特徴的であり,これには同症で観察されるインスリン抵抗性の高まりが関与する可能性が考えられた.さらに,本症ではFM,TBW両者の相反的な変化が相殺されるために母体体重に明らかな変化の現れないことが推測され,従来の体重のみを指標とした妊婦管理の限界がうかがわれた.いずれにしても臨床的にもっとも問題となる中毒症重症の体成分変化が,この妊婦体成分診断法によって妊娠の比較的早期から他の中毒症群と区別しうるという事実は,本法が中毒症の予知,病態診断を考えるうえできわめて重要なものになる可能性を示唆するものと考えられた.〔産婦の進歩56(3):275-286,2004(平成16年8月)〕

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